篠原課長に退職を決断させた「事件」とは?
コアバリューを決定し、経営チーム全員の評価をしてから3ヵ月後のことでした。篠原課長とシステム部門との間に大きな軋轢が起こりました。篠原課長が、予算管理のシステム化のプロジェクトが遅れていることに腹を立て、システム部門の担当者を強く非難したというのです。
「私や私の部門はスケジュールどおりに進めているのに、あなたたちはどういうつもりなのですか?」となじり、事情を訊かず、スケジュールの再調整をしようともせず、一方的に会議を打ち切ってしまったというのです。システム部門の担当者は困惑した様子でした。
社長はその報告を受け、ハタと気付きました。篠原課長の行動は明らかに2つのコアバリュー「謙虚かつ自信に溢れる」、「ヘルプ・ファースト」に反していたのです。 また、よく考えると、篠原課長が新しい高度な業務に消極的だったのも、「成長なくば衰退」というコアバリューを会社が求める水準で体現できなくなっていた表れなのかもしれない、と思いました。
社長は篠原課長を呼んで個別面談を行い、コアバリューに則って、篠原課長の行動の問題点を指摘しました。篠原課長は根が真面目で誠実な人なので、自身の行動を反省しました。そして、その後、篠原課長の態度には大幅な改善がみられました。他部署からの負のフィードバックも、以前よりは少なくなりました。
しかし、数ヵ月後、篠原課長は退職を申し出ました。いろいろ思い悩んだ結果、「この会社のコアバリューは自分のものではない」と考えるに至ったというのです。 社長と経営チームのメンバーはそろって篠原課長を慰留しましたが、彼女の決意は固いようでした。
「実は、他部署との関係がいまいちうまくいっていない気がして、ずっと苦しんでいました。自分のせいかも知れないと思ったこともあるし、ひどい態度をとってしまったと後悔したこともあります」
「最近は部下との関係もうまくいっていない気がして、悩んでいました」
「コアバリューが策定されたことで、私の問題点がわかりました。改善しようとも思いました。でも、そのストレスが大きすぎました。だから、環境を変えて心機一転、出直してみたいんです。わがままを聞いてください」
社長は、他部門の社員だけでなく、篠原課長も苦しんでいたことを知り、退職を認めざるを得ませんでした。 その後、篠原課長の穴を埋めるのは大変でしたが、経理部内部の昇進と新しい人材の探索を開始し、何とか対処していくことができました。 篠原課長もその後、自分のコアバリューに合う会社に転職し、新天地で活躍しているとのことです。