会社の信頼を一身に受ける、有能な経理責任者
A社経理部の篠原課長は、創業期に入社し、会社とともに成長してきた人材です。誠実で知識も豊富、頼りになる経理責任者として評価されていました。社長からの信頼が厚いだけでなく、顧問税理士からも一目置かれる存在でした。その人柄は飾らず、人々を惹きつける力がありました。皮肉を交えたジョークで笑いを誘う彼女は、社内の人気者でもありました。
彼女の一番の長所は、仕事を最後までやり遂げる姿勢でした。どんなことをしても納期に間に合わせ、部下への指導も情熱的で、彼女の下で働く者はみな彼女を尊敬していました。
しかし、どういうわけか、そんな篠原課長に対する他部門からの業務上の評判は芳しくありませんでした。「締め切りに厳格すぎる」などのフィードバックが社長に寄せられていました。しかし、社長は篠原課長が仕事熱心ゆえのことと考え、さほど深刻にとらえていませんでした。
その後、A社は売上が8億円を超えたのを契機に、売上10億円を超えてさらに飛躍するための体制を整えることになりました。 彼女は以前とは違う態度を見せ始めました。経理部の新たな資金調達や税務に関する業務が増えていくにしたがい、経理部の仕事が滞りがちになったのです。
社長の目には、経理部を取り仕切る篠原課長が、新たに加わった様々な業務に対し消極的であるように映りました。社長が篠原課長を呼んでそのことを指摘したところ、篠原課長は、どうしたらよいのかわからず戸惑った様子でした。そして、その後も状況はあまり改善されませんでした。
社長は経理部の他の社員にそれとなく篠原課長の日ごろの仕事ぶりを聞き出しましたが、仕事熱心な姿が浮かび上がるばかりでした。他方で、「篠原課長は何かに悩んでいるようです」という話も聞かれました。
社長は、「見込み違いでとんでもないことをいってしまったかな」と反省しました。