JASRACの“厳しさ”は世間も知るところだが…大半の音楽は〈使用料免除で社内BGMにできる〉という意外事情

JASRACの“厳しさ”は世間も知るところだが…大半の音楽は〈使用料免除で社内BGMにできる〉という意外事情
(画像はイメージです/PIXTA)

会社の館内放送でBGMを流す、会社で毎日『ラジオ体操』をかける、学校の運動会のパネルにキャラクターの絵を描く、公民館や病院で映画上映会を開く…こういった形で著作物が利用されることは珍しくありませんが、著作権法上の問題はないのでしょうか? 改めて考えると気になる著作物利用の可否について、友利昴氏の著書『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、解説します。

会社の館内放送でBGMを流してもいい?

⇒解説はややこしいが、大半は無条件で流せる

 

会社の館内放送でBGMを流す場合、著作権のクリアランスは必要だろうか。結論からいえば、多くの場合不要だ。だがどのような条件で不要なのか、なぜ不要なのかの解説は少々ややこしい。

 

音楽を特定多数の従業員(公衆)に向けて流すには、原則として演奏権のクリアランスが必要だ(なお、市販のCD等を再生して流しても著作権法上は「演奏」に含まれる ※1)。また同一構内を超える範囲での送信には、公衆送信権のクリアランスも要る。

 

一方、非営利目的・無報酬の演奏は、著作権者の許諾を受けなくてもよいとする例外規定がある(※2)(ただし公衆送信は例外規定の対象外)。始業等を知らせるチャイムであれば、単に時間が来たことを知らせる目的でしかなく、非営利目的と考えられる。一方、執務室や工場などでのBGM利用は、社員の士気向上や保養という生産性に寄与する間接的な営利目的があるため、例外規定の対象外との見解もある。

 

しかし、もし社内BGMが公衆送信や間接的営利目的にあたる場合でも、実態として無条件での利用が許されている。日本では音楽作品の多くがJASRACかNexToneに管理されており、彼らの定める規定に基づいて運用されているが、その規定において「事務所・工場等での主として従業員のみを対象としたBGM利用」は、「当分の間」料金免除とされているのだ(※3)。実質的に、JASRACとNexToneの管理楽曲はクリアランス無しで社内BGMとして利用できるというわけだ。

 

ところで実務上、日本の企業内で最も流される音楽とは、始業時の「ラジオ体操」ではないだろうか。実は最もメジャーな「ラジオ体操第一」(作曲・服部正)は、JASRACもNexToneも著作権を管理していない(※4)。つまり両団体の規定に基づき「使用料免除」とはならないのだ。

 

「ちょっと待ってよ。うちの工場、毎朝『ラジオ体操第一』やってるよ!」という方、安心してほしい。同曲はもともとラジオ体操が旧郵政省の保険行政の一環として行われていた経緯から、現在は日本郵政グループのかんぽ生命保険が著作権を管理している。そして同社は「職場において従業員の健康増進を目的として始業前や昼休みなどに使用する場合」について、申請不要で利用できるとしているのだ(※5)

 

以上の経緯と検討により、事業所内のBGM利用は、大半がクリアランス不要といえるのである。

 

※1 著作権法第2条7項

※2 著作権法上第38条1項

※3 JASRAC使用料規定(令和5年2月10日届出版) 第12節備考③、NexTone使用料規定(2023年1月30日届出版)第22条2項(2)

※4 なお「ラジオ体操第二」(作曲・團伊玖磨)は放送権を除いてJASRAC管理(放送権はかんぽ生命保険とNHKの管理)。「みんなの体操」(作曲・佐橋俊彦)はJASRAC管理。

※5 かんぽ生命保険「ラジオ体操・みんなの体操 楽曲等の使用について」(2023年6月時点)

公共機関では著作物の無断利用が許される?

⇒許される場合がある。自由利用の範囲を押さえよう

 

一般企業では、著作権の尊重は当然のことだが、役所、学校、病院などにおいては、その公共性から著作物の多少の無断利用は許容されるという雰囲気がある。これは正しいだろうか。

 

ある程度は正しい。著作権法は、公共の利益と著作権者の利益のバランスを図り、一定の公共機関においては公益のために著作物の自由利用を許している。ただその自由範囲にも限度がある。自由に著作物を利用できる範囲を知らなければ損だし、一方で無制限の自由だと誤解するのも危険である。

 

公務員には「立法・行政目的のための内部資料として必要限度の複製」が原則許されている(※6)。例えば省庁や役所で法改正や行政サービス検討のために文献をコピーしたり、警察が捜査の一環で資料をコピーするのは問題ないと保証されているのだ。ただし広報誌やウェブサイトなどは「内部資料」ではないので原則通りである。

 

学校その他の教育機関における著作物の利用も自由が大きい。授業の過程における利用に役立てることを目的とする複製・公衆送信は原則として可能である(ただし公衆送信には原則補償金の支払いが必要)(※7)。この「学校その他の教育機関」には私立学校、幼稚園、保育所、学童保育、専門学校、大学、職業訓練所、生涯学習センターなどの公的な社会教育施設なども含まれ、民間の塾や予備校、カルチャーセンターなどは含まれない。

 

また、ここでいう「授業」には、座学だけでなく、運動会、文化祭、修学旅行、卒業式などの学校行事、学級活動、ホームルーム、部活動なども含まれる。運動会のパネルにキャラクターのイラストを描いたり、修学旅行で地図の一部をコピーすることも、行事遂行の一環であれば問題ないのだ。いわゆる典型的な授業のイメージよりも適用範囲が広いことは知っておいた方がよいだろう。

 

一方、PTA活動や学校説明会、教師の管理下にないサークル活動などは授業ではないため対象外。校舎の装飾、学校のホームページも対象外である。また授業であっても、著作権者の利益を不当に害する場合(例えば市販の学習ドリルを全部コピーするなど、正規品の販売機会を奪うような場合)は除外されている。

 

最後に、非営利目的・無料・無報酬による上演・演奏・上映・口述も自由である(※8)。公民館などでの絵本の読み聞かせや映画上映、病院や老人ホームにおける入院患者や入居者のためのレクリエーションとしての演奏会や映画上映などは、該当するケースが多いだろう。

 

 

※6 著作権法第42条

※7 著作権法第35条、著作物の教育利用に関する関係者フォーラム「改正著作権法第35条運用指針」(2020年12月)

※8 著作権法第38条1項。なお福祉、医療、教育機関におけるJASRAC、NexTone管理楽曲のBGM利用は、営利目的であっても、両団体の利用料規定上、当面利用料免除。

 

 

友利 昴

作家・一級知的財産管理技能士

 

企業で法務・知財業務に長く携わる傍ら、主に知的財産に関する著述活動を行う。自らの著作やセミナー講師の他、多くの企業知財人材の取材記事を担当しており、企業の知財活動に明るい。主な著書に『エセ著作権事件簿』(パブリブ)、『知財部という仕事』(発明推進協会)、『オリンピックVS便乗商法』(作品社)など多数。

講師としては、日本弁理士会、日本商標協会、発明推進協会、東京医薬品工業協会、全日本文具協会など多くの公的機関や業界団体で登壇している。一級知的財産管理技能士として2020年に知的財産管理技能士会表彰奨励賞を受賞。

※本連載は、友利昴氏の著書『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。
※本連載で言及している法制度は、特にことわりがない場合、2023年7月1日時点のものになります。

職場の著作権対応100の法則

職場の著作権対応100の法則

友利 昴

日本能率協会マネジメントセンター

ここまではアウト!? こうすればセーフ!? ビジネスで直面する著作権のモヤモヤを解消する! 普段はあまり気にしていないが、いざ直面して悩む「著作権」。昨今は権利・利益を守る意識が高まっていることや誰でも社会に配信…

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