社内でのコピーはどこまでOK?
⇒著作権者の不利益を想像して適否を考えよう
簡単なようで難しい。著作権法は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲」で使用する目的での複製(私的複製)を認めている(著作権法第30条1項)。しかし、会社などの組織における業務目的での使用は、原則この私的複製にはあたらないと考えられているむきがある。したがって他人の著作物を会社で複製することは著作権侵害、これがシンプルな答えである。なお、複製にはプリントアウト、書類をスキャンしてPDF化すること、サーバへのデータアップロード、Eメールへの添付なども含まれる。
「難しい」と書いたのは、この答えがビジネスの現実とは乖離しているからだ。仕事にならない、という意見もあろう。そこで本稿ではもう少し踏み込んで考えたい。
一口に「会社での複製」といってもその目的や態様はさまざまであり、十把一絡げには語れない。著作権法上許容される(私的複製の範囲に収まる)「会社での複製」と、そうではない「会社での複製」があると考えるべきだろう。
法律上、私的複製が認められている理由は、著作権を保護しつつも、一方で①私的領域における行動の自由(法の不介入)を保障する必要性、②私的領域における著作物の利用を促進することで文化の発展に貢献する必要性があるからである。これを踏まえれば、「著作権」(著作権者の利益)と「私的領域で自由に行動できる権利」「著作物の利用による文化の発展が妨げられない権利」(利用者の利益)のバランスを考え、後者を守るべき事情があれば、その複製は私的複製と評価できる。
例えば、数人での打ち合わせ資料として、競合他社のパンフレットや一般に配布されている営業資料を2~3部コピーするケースを考えてみる。その打ち合わせのためだけに使われるのであれば、資料のコピー自体が著作権者に与える不利益は極めて軽微である一方、いちいち著作権者に許諾を求めたり対価を支払うことは、個人にとって大きな負担(自由制限)である。そのために業務が滞れば、著作物の利用が過度に妨げられていると評価できる。こうしたケースでは、私的複製として認められやすいだろう。
学説上も組織内でのコピーについて、「事実上の私的領域の行動の自由を保障する必要性の高さと、権利者にもたらす不利益の程度の低さのバランス等を考慮して、私的複製の範囲内と評価すべき場合がある」とする見解があり(※)、本稿もその立場に立つ。
ただし利用者側は業務上の複製が日常的であるがゆえ、「複製する自由」に考えが偏重しがちである。日々の複製において「著作権者の立場だったら、このコピーは不利益にならないだろうか」と想像しながら、その適否を考えることが重要だ。
※田村善之『著作権法概説〔第2版〕』(有斐閣、2001年)200頁、TMI総合法律事務所編『著作権の法律相談Ⅰ』(青林書林、2016年)303頁、島並良・上野達弘・横山久芳『著作権法入門〔第3版〕』(有斐閣、2021年)181頁など。
社内で認められる「私的複製」の程度は?
⇒「個人的」と同視できるレベルであるか
私的複製の範囲に収まる会社内での複製行為には、どのような類型があるのだろうか。まず、会社内で複製しているが、目的が完全に個人的なら私的複製だろう。
例えば、会社で購読している雑誌に面白そうな記事を見つけて「家でじっくり読みたいから」とコピー、あるいはプライベート用のクラウドストレージにアップロードする。帰りに新しくできた居酒屋に寄りたいので、店の地図をプリントアウトする。お気に入りのキャラクター画像をダウンロードして、会社から貸与されているパソコンの壁紙に設定する。
これらは個人が自分自身のみの便益のために行うものだ。会社のコピー機を私的に利用したり、外部のストレージサーバにアップロードしたり、社用パソコンをカスタマイズすることが、その会社の社内規則に照らして適切かは確認した方がよいが、著作権侵害の問題は生じない。
では、報告書を書くために専門書をコピーする、出張先の同僚のために会社の蔵書を必要な箇所だけコピーして送信する、会議のためにウェブページを人数分コピーする、会社の忘年会の会場となる店の地図を人数分プリントアウトする――このようなケースはどうだろうか。
これらは個人が自分自身のために複製しているのではなく、他人(会社や会社の同僚)の便益のための複製である。これらを「個人的」と位置付けるには、複製によって著作権者にどの程度の不利益があるか、複製を制限すれば個人の自由や著作物の適切な利用促進がどれだけ損なわれるかのバランスを考え、その結果「個人使用目的の複製」と同視できるレベルであれば、私的複製と考えることが可能だろう。
例えば一般公開のウェブサイトは、もともと誰でもどこからでも無償でアクセスできるため、それを会議などの一時的利用のためにプリントアウトされても著作権者に特段の不利益はない。反面、プリントアウトの度に許諾を要するとすればかなりの負荷(自由制限、利用促進制限)となる。常識的規模であれば私的複製と整理できる場合が多いだろう。
一方、有料記事や会員限定記事の場合、これを複製されれば、複製物の利用者は本来支払うべき対価を支払わずに記事を読むことができ、それは著作権者の不利益になる。部数や目的に照らし、一律NGとはいえないが、一定の配慮があるべきだろう。書籍のコピーも、絶版本と最新刊、あるいは一部と全部とでは、複製が著作権者に与える不利益の程度は異なり、それは法的な評価にも影響するだろう。
社内でのコピーが著作権トラブルになる場合は?
⇒権利者の経済的不利益になるソフトや出版物のコピーに注意
比較的安易に行う人も少なくないが重大な著作権問題として顕在化しやすいのが、業務用ソフトウェアのコピー(使い回し)である。業務用ソフトウェアは、多くの場合インストールできるパソコンの台数限定など、利用条件を定めたうえで複製が認められている。共用パソコンへのインストールを禁止したり、異動時のアンインストールを義務付けている場合もある。
個々のユーザーは利用規約を読み飛ばしがちだが、規約に反した使い回しは著作権侵害である。ソフトウェア会社としては、規約に反して複製された分だけ売り上げを失う直接的な不利益があるし、業務のために反復継続して使用するソフトウェアの使い回しを、私的複製と同視できるシチュエーションはほぼないだろう。
また、従業員が個人の判断で、海賊版などの違法コピーされたソフトウェアをインストールしてしまうこともある。会社として監視が難しい場合はあるが、業務上の行為である以上、発覚すれば著作権者は会社に法的責任を追及し、会社は従業員を処分するだろう。従業員本人としては、会社のコスト削減のためにと違法コピーソフトに手を出したのかもしれないが、会社にとっても本人にとっても百害あって一利なしである。堂々と、正規品の購入申請をしよう。
書籍、雑誌、新聞などの複製は、個々に見れば私的複製と同視できるシチュエーションはあるが、規模や反復継続性、目的その他の考慮要素から妥当性を検討することになる。例えば、新入社員研修のために毎年同じビジネスマナー本の抜粋コピーを配ることは、その目的や規模に照らして「個人的」と評価することはできず、またその本の著者や出版社にハッキリとした不利益をもたらす。個別に許諾を得るか、人数分購入すべきだ。
もし境界線の曖昧(あいまい)さを敬遠するなら、JRRC(日本複製権センター)、JCOPY(出版者著作権管理機構)、JAC(学術著作権協会)など、出版物の複製利用許諾を代行する団体との契約により包括的許諾を受けてしまうことも一考だ。
例えばJRRCでは、管理著作物(一般書、実用書、学術書が多い)について、出版物全体の30%または60頁以内、一回あたりのコピー部数が20部以内、スキャンデータ共有規模が社内の30人以内などの条件で、年間利用料「140円×従業員数」などのプランを有している(JRRC「使用料規程」〔令和5年4月1日〕)。
友利 昴
作家・一級知的財産管理技能士
企業で法務・知財業務に長く携わる傍ら、主に知的財産に関する著述活動を行う。自らの著作やセミナー講師の他、多くの企業知財人材の取材記事を担当しており、企業の知財活動に明るい。主な著書に『エセ著作権事件簿』(パブリブ)、『知財部という仕事』(発明推進協会)、『オリンピックVS便乗商法』(作品社)など多数。
講師としては、日本弁理士会、日本商標協会、発明推進協会、東京医薬品工業協会、全日本文具協会など多くの公的機関や業界団体で登壇している。一級知的財産管理技能士として2020年に知的財産管理技能士会表彰奨励賞を受賞。