採用するなら、第三者の著作権を侵害していないかチェック
売り込み企画を採用するなら、第三者の著作権を侵害していないかどうかに一定の気配りが必要だ。外注制作などでも同じだが、売り込みの場合には、信用がまだ構築されていない点を考慮してより慎重になった方がよい。露骨に疑うのもよくないが、企画経緯や、第三者に権利を譲渡等していないかなどをさりげなく確認し、不自然な点があれば採用を見合わせたり、「第三者の著作権を侵害しないことを保証する」旨の書類に一筆もらうくらいの自衛策はあってもよいだろう。
断る場合も要注意。その後、偶然「似たような企画」が通ると…
売り込みを断る場合にも留意すべきことがある。断った後で、売り込みを受けた担当者とは別の担当者が、偶然に似た企画を考案して社内で通してしまい、売り込み主が著作権侵害や企画盗用を疑ってクレームを入れてくることがあるのだ。
だが、事実として盗用しておらず、偶然の類似に過ぎなければ著作権侵害ではない。そもそも客観的に見れば本人が思うほど似ていないことも多い。しかし、売り込み主の主観としては盗用に見えてしまうことも想像できる。
偶然の類似は防ぎようがなく、道義面も含めて落ち度はない。そうである以上は負い目を感じたり、過剰に配慮する必要はないだろう。「企画経緯に不正がないこと」「法的な問題がないこと」の2点を丁寧に説明すれば誠意としては十分だ。ただし、相手の頭に血が上っており簡単には納得しない可能性もある。その場合、こちらの正当性に加えて、両企画の相違点を事細かに整理して伝えてあげるとよい。要は「似ているとおっしゃいますが、違うところがこのようにたくさんある別物であり、あなたが怒るほど、あなたにもあなたの企画にとっても何の不利益もない」ことを理解してもらうのだ。
感情的になっている人を冷静にさせるには、実際的な不利益が存在しないことの丁寧な説明が奏功する。「冷静に考えれば怒るようなことではない」と気付かせることができれば人は怒りを収めるのだ。
ゲーム会社は「企画売り込み一切お断り」のスタンスで自衛
なお、このようなトラブルのリスクをゼロにしたければ、企画売り込みを一切受け付けない方針を採るしかない。郵送されても開封せず返送もしくは廃棄だ。この手のトラブルが少なくないゲーム会社などでは、そうしたスタンスをあらかじめ表明していることも珍しくない。
友利 昴
作家・一級知的財産管理技能士
企業で法務・知財業務に長く携わる傍ら、主に知的財産に関する著述活動を行う。自らの著作やセミナー講師の他、多くの企業知財人材の取材記事を担当しており、企業の知財活動に明るい。主な著書に『エセ著作権事件簿』(パブリブ)、『知財部という仕事』(発明推進協会)、『オリンピックVS便乗商法』(作品社)など多数。
講師としては、日本弁理士会、日本商標協会、発明推進協会、東京医薬品工業協会、全日本文具協会など多くの公的機関や業界団体で登壇している。一級知的財産管理技能士として2020年に知的財産管理技能士会表彰奨励賞を受賞。