米アップル社、日本で「iPhone」を販売するために「日本企業に年間1億円」支払っていたという裏話

米アップル社、日本で「iPhone」を販売するために「日本企業に年間1億円」支払っていたという裏話
(画像はイメージです/PIXTA)

発売予定の新商品名がすでに商標登録されていた場合、会社はどのような対応を取ればよいのでしょうか? 一級知的財産管理技能士・友利昴氏の著書『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、対処法を解説します。米アップル社が「iPhone」を日本で販売するために多額の使用料を支払ったというのは、IT界隈や商標の業界では有名な話ですが…。

新商品のネーミングは他社が商標登録済みだった…どうする?

⇒ライセンス交渉の前に商標権の取消を検討しよう

 

発売予定の新商品名が、他社によって先に商標登録されていることがある。アップルの「iPhone」の商標は、日本ではインターホン大手のアイホン社の類似商標「アイホン」の商標登録が先にあったため、アップルは同社からライセンスを受けて使用することになったのは有名な話だ。その使用料は、最盛期で年間1億円だったとも囁かれる。もし同じ状況になったら、先行商標権者に多額の使用料を支払わなければならないのだろうか。実はそのようなケースはかなり稀である。

 

まずはおとなしく別のネーミングを考えるのが、最も安上がりで合理的な方法だ。もっともiPhoneのように輸入品で、日本でだけネーミングを変えるわけにはいかない場合もあるだろう。

 

その場合、交渉より先に先行商標権を取り消すことを検討しよう。過去3年以内に使用実績のない商標権は、請求により取り消すことができる(※1)。商標登録したはよいものの、販売終了などにより稼働していない「休眠商標」は数多い。統計上、商標取消審判請求の成功率は約7~8割にものぼる(※2)。商標権者に頭を下げて頼みに行く前に検討しなければ損である。

 

どうも使用されていそうだ、あるいは取消審判請求の結果が出るまで待てない(早くても3、4ヵ月かかる)場合は商標権者との交渉となる。もっともライセンスだけが選択肢ではない。商標権者が事実上問題視しなければ「商標権の不行使(商標併存)の同意」という手がある。これは権利の貸与や移転を伴わないので、対価も発生しないことが多い。また、商標権自体を買い取る手もある。この場合、1回の譲渡対価の支払いで済むのがメリットだ。

 

ライセンスは、短期間の使用であれば権利譲渡よりも低廉な使用料で済むが、商標を使い続ける限りずっと使用料を支払わないといけないのがデメリットである。たまたまネーミングが被っていただけで商標権者とは無関係の商品なのに、いつまでも使用料を支払うことに徐々に抵抗感や不満を抱くライセンシーは多い。なお、使用料は年間数十万円程度がよく聞かれる額だ。

 

年間1億円もの使用料は、超巨大企業の基幹事業に関する商標で、変更の余地がなく、発売日も決まっており、商標権者が商標を使用中で権利取消の余地もないという奇跡的な条件が揃ったことで実現したライセンス条件と考えるべきだろう。工夫次第で、商標クリアランスにはさまざまな切り口が考えられるのだ(※3)

 

※1 商標法第50条

※2 特許庁『特許行政年次報告書2022年版』(特許庁)p.73

※3 2024年6月までに施行予定の改正商標法により、先行商標権者の同意により後発類似商標の登録を認めるコンセント制度(商標法第4条4項)が導入され、これも選択肢となる。

ちなみに「商標ブローカー」は無視してよし

新語、流行語、業界用語、あるいはまだ商標登録されていない他社の商品名などを先に商標登録し、その名称の使用者に利用料をせびる輩がときどき現れる。誰かが使いそうな言葉を手当たり次第に大量に商標出願して有償での使用希望者を募る者もいれば、ピンポイントに特定のトレンドワードを商標登録して多くの利用者に警告書を送りつけたり、ライセンス契約を持ちかける者もいる。こういう輩から「使用料を払え」と言われたら、応じなければならないだろうか。

 

応じる必要はない。新語、流行語、業界用語、他人の商標として広く知られた言葉、自らの事業で商標として使用するつもりがない言葉などを、他人から利用料を巻き上げる目的で登録した商標は、権利として無効である。いざ商標権侵害を主張して訴えたとしても「権利の濫用」として認められず、あるいは相手方がその商標権に対して無効審判請求をすれば、権利の方が無効になる。

 

おすすめの対抗策は、同じようにライセンスを持ちかけられている同業者と連帯して、共同で商標権に対する無効審判請求を提起することだ。業界団体名義の請求もよい。商標権の無効性を判断するのは特許庁だが、多数の同業者が迷惑を被っていることをアピールすれば無効判断を導きやすいし、費用負担も按分できる。

 

本来無効な商標権を使って金をせびる輩は「商標ブローカー」と呼ばれ、商標登録制度を悪用して小銭を稼ぐことを目的としている。「確かに登録されている以上は…」と落胆し、唯々諾々(いいだくだく)と従う者だけが損をする仕組みになっているのだ。

 

 

友利 昴

作家・一級知的財産管理技能士

 

企業で法務・知財業務に長く携わる傍ら、主に知的財産に関する著述活動を行う。自らの著作やセミナー講師の他、多くの企業知財人材の取材記事を担当しており、企業の知財活動に明るい。主な著書に『エセ著作権事件簿』(パブリブ)、『知財部という仕事』(発明推進協会)、『オリンピックVS便乗商法』(作品社)など多数。

講師としては、日本弁理士会、日本商標協会、発明推進協会、東京医薬品工業協会、全日本文具協会など多くの公的機関や業界団体で登壇している。一級知的財産管理技能士として2020年に知的財産管理技能士会表彰奨励賞を受賞。

 

※本連載は、友利昴氏の著書『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。
※本連載で言及している法制度は、特にことわりがない場合、2023年7月1日時点のものになります。

職場の著作権対応100の法則

職場の著作権対応100の法則

友利 昴

日本能率協会マネジメントセンター

ここまではアウト!? こうすればセーフ!? ビジネスで直面する著作権のモヤモヤを解消する! 普段はあまり気にしていないが、いざ直面して悩む「著作権」。昨今は権利・利益を守る意識が高まっていることや誰でも社会に配信…

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