ペーパーレス化など事務処理でもSDGs促進を
診療所が配慮するべきSDGsは医療そのものには限らない。例えばペーパレス対策だ。診療所から大規模病院へ患者さんを紹介する場合、診療情報提供書というものを作成し、紹介先へ渡す。事前に電話で相談した患者さんの情報であってもそれが求められるのは情報の記録と保存、共有の観点から当然だ。
しかし、現時点で運用が紙ベースであることがほとんどだ。診療情報提供書は診療所の電子カルテで作成され、印刷される。その書類をファクシミリで病院に送った上で患者さんに手渡し、病院にも持参する。受け取った病院はこれを自院の電子カルテシステムで参照できるようスキャンし、原紙は一定期間保管する。
診療情報提供書を電子的にやりとりすることは可能で、そうしている病院はある。しかしこれは、紹介先である大病院の対応があっての話であり、現実としては当院もこの点での成果はあげられていない。
診療情報提供書は、該当患者さんの経過、これまで行って来た検査や治療とその結果をまとめたものだ。この情報がいい加減だと同じ検査が重複してしまうようなケースが出てくる。これは患者さんへの負担になるだけでなく、SDGsの点からも極力避けるべき事柄だ。
もちろん変化を見るという点での必要性はあり、重複の全てが不要とは言えない。しかし、この検査そのものも過剰に行われていることがあるようだ。身体診察と問診に病歴聴取がしっかりしていれば、検査の項目や件数は今よりも減らせる。当然だが各種検査にも資源・費用が必要だ。診察問診では判断の難しいもの以外は、安易に実施しないほうがいいだろう。一人の医師として、この気持ちはこの先も忘れずに診療にあたっていきたい。
医療は人の健康や命を守る仕事だ。このため、衛生面や経済的な観点から、SDGsが掲げる目標をそのまま受け入れられないケースはある。また、SDGsと衛生面・経済面のどちらを優先させるべきなのか判断に迷う「グレーゾーン」もある。我々のような現場の医師は、実行可能な医療分野のSDGsを積極的に進めつつ、グレーゾーンについても国レベルで一定のコンセンサスを作れないか考える必要がある。一人一人の医師や医療現場がそうした認識を持つことが「SDGsと医療の共生」への新たな一歩となるのではないだろうか。
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浦山 建治 (うらやま けんじ)
1973年生。一橋大学社会学部卒業後、信託銀行勤務を経て2007年宮崎大学医学部卒。日本小児科学会専門医、日本内科学会認定内科医。国立病院機構岡山医療センター、福山医療センターなどで勤務。2022年7月より青山こども岡山北クリニック副院長。