医療現場や患者の資源の無駄遣い
抗生物質に限らず、処方した薬がしっかりと服用されているのか、という点も見逃せない。医療側は処方したものは全てきちんと服用されていると考えたいが、現実はここでも違う。処方しても使われない薬が実際には相当数存在する。
そして次の受診時に、前回処方は効果なしと判断し、別の候補を追加して処方してしまう。これは一人の患者に何種類もの薬が処方され、結果的に有害事象が生じてしまう「ポリファーマシー」の遠因にもなる。使われなくなった薬は、各家庭において廃棄される。廃棄された薬剤が生物や環境に影響がないと言えるだろうか。
薬の問題だけではない。SDGsという観点からは、現実との間に生じる矛盾が見えてくる。医療現場においては、安全・衛生面や経済的な観点との矛盾も明らかだ。例えば「舌圧子」という診察に使う器具を考えてみる。これは咽頭を診察する際に舌を抑える為に用いる器具だが、かつては金属製のものが主流だった。それをオートクレーブという手法で消毒し、何度も利用してきた。
しかし最近は木製の使い捨てが主流だ。しかもプラスチックで一本ごとのに包装されている。消毒を要する金属製舌圧子よりも手間がかからず衛生的だが、ゴミを増やすのはどちらだろうか。一昔前、割り箸が環境問題の象徴のように扱われていたが、木製の舌圧子を使い捨てにするのにも同様の問題がある。当院では基本的に金属製の舌圧子を使用しており、消毒が間に合わない場合に木製の使い捨てを使用している。
もちろん、すべてSDGs優先というわけにもいかない。予防接種における注射針、注射筒。現在はどちらも一本ごとの使い捨てであり、その注射筒はプラスチック製だ。日本では1980年代まで予防接種における注射筒の使いまわしは当時の厚生省によって認められていたことから、B型肝炎の蔓延につながった。それを踏まえた対策であり、今後も資源の有効活用より感染予防が優先されることになるだろう。