<前回記事>自衛隊の筆記試験は「珍回答」続出…同期全員が腹筋崩壊した“トンデモ解答”【Xフォロワー24万人超・元陸上自衛官の実録】
陸上自衛隊(ますらお)たちの一番の楽しみは「休日の外出」
陸上自衛隊の生活において一番楽しいのが休日の外出です。いくら駐屯地の中では衣食住タダで生活できるといっても、いきなり裸族が登場したり、洗濯機の使い方に激怒する班長がいたりする世界は疲れてしまうのです。営内にいる隊員は基本的に土日しか外出できないため、金曜日になると「明日は外出ができる!」という高揚感からソワソワし、理想の休日を何回も何回もシミュレーションします。
そんなますらおへの最大のお仕置きはもちろん、「外出禁止」です。外出禁止となると、休日も駐屯地内で生活しなくてはいけません。そうなると売店でアイスを買って食べたり、厚生センターにある『美味しんぼ』をボンヤリした顔でパラパラめくったりして過ごすのが関の山になるのです。
また、外出禁止以外にも「残留要員」となって外出できないことがあります。いつ緊急事態が起きてもいいように、休日でも若手隊員を残しておく必要があるのです。休日は誰が残留するかで揉め、「なんで俺ばっかり残留させるんだ!」と大喧嘩になることもあります。特にクリスマスやバレンタインデーなどのビッグイベントでは、誰がジョーカー(残留要員)を引くか熾烈な争いを繰り広げます。
こういうときは非モテのオタク隊員達の出番となり、「聖なる夜は俺達に任せな!」と言い、ジョーカーを引き受けます。彼らは営内に残り「クリスマスをぶっ潰す」とか言いながら、徹夜でモンスターハンターなどのゲームをします。素晴らしい緩衝材要員ですね。
陸上自衛官の私服、だいたい「ユニーク」になりがち
外出予定があるますらおは、洗濯、掃除、プレス、靴磨き、部屋の整理整頓をして出発します。家事をばっちり行う主夫の朝みたいですが、しっかりと日常の整理整頓をしておかないと、意地悪な姑のように口うるさい先輩隊員がやってきて「お前は何もしていないのに外出をするのか!」とネチネチ言われるので大変です。
外出をする際は朝に当直室へ行き、身分証持参を当直幹部に示して、外出許可証といわれる魔法のアイテムをもらいます。
これで晴れて外出できるわけですが、もちろん休日なので制服ではなく私服を着用します。しかし、陸上自衛官の私服は一言でいえば「ユニーク」です。
短髪に帽子を被り、定番のTシャツ、ジーンズにチェーン(身分証と外出証が入ったカードケースを付けている)という服装なので、田舎の中学生のようなスタイルになりがちです。さらに、ここに原色のランニングシューズや登山靴、OD色のリュックなどが装備されていくので「実用性が高い田舎の中学生スタイル」が完成されます。
ますらおの私服でよく見るスタイルをまとめておくと、
●なぜか登山靴を履いている
●腰から身分証用のチェーンが垂れている
●謎の筆記体がアクセントのドラゴンイラストTシャツを着ている
●ワイシャツの下が迷彩シャツ・カラフルなランニングシューズを履いている
●安っぽいショルダーバッグ
●迷彩のベルクロ財布
などが挙げられます。こちらを参考に、駐屯地が近くにある街に行った際には「自衛官探しゲーム」をするのもまた一興でしょう。おそらくたくさん見つかります。
なぜこのように「ユニーク」になってしまうのかというと、彼らはいつも迷彩服やジャージを着ており、普段は私服を着ている人を見かけないので、カッコいい服の基準が分からなくなっているからです。乱暴な言い方をすれば「迷彩服、運動服装、それ以外」という区分になっているので、とりあえず「明らかにおかしくなければOK」という感じで服を揃えた結果なのです。カジュアル系、モード系、ストリート系などなど…をますらお達に聞いても、まったく分かりません。
もちろん、「ファッションが好きでたまらない!」とおしゃれな古着などを着こなし、モテるラッパーのようになっている若手隊員もいますが、美的センスが狂って「ピエロのように派手な服に先の尖った靴を履いている」というエキセントリックボウイもいます。
なお、マッチョな隊員が急にファッションに目覚めた場合、強さに極ぶりしたようなファッションになり「色黒、マッチョ、ツーブロック、タートルネック、スキニージーンズ、セカンドバッグ」といった六本木にいる不良風になったりします。
昼間は束の間の「自堕落」を楽しんだり、己を高めたり
営内生活をしている彼らは規則正しい生活を余儀なくされるので、その反動で休日は自堕落な生活に走ることも多いです。といっても1〜2日ぐらいの短い期間なので、さしずめ「ファッション自堕落」といったところでしょうか。二郎系のデカ盛りラーメンと格闘したり、パチンコ屋で『北斗の拳』の世界を楽しんだりする人達が比較的多いです。エッチな大人のお店にいく人も中にはいますが、「待合室に行ったら知り合いばっかりだった」という悲しい結末もよく聞きます。
一方で休日にもストイックな過ごし方をする隊員も多く、筋肉の聖地であるゴールドジムで体を鍛え、サウナで限界まで追い込み、ホワイトアウトする人達もいます。部隊の訓練じゃ足りないと言い、「俺は絶対にレンジャーになって、水陸機動団*に行くんだ!」と自主的にラックサックマーチをしたり、武装走をするますらおまで出現します。
(*水陸機動団… 海から上陸をして戦う精鋭部隊。いわゆる海兵隊〔マリーン〕。最近では海外の軍隊とも共同訓練などを行っている。)
さらに、甘いものを求めて集団でスイーツ食べ放題に行き、ショートケーキやエクレアを次から次へと食べる人達もいます。甘いものに飢えた短髪のますらお達はスイーツを食べ尽くしてしまうので、店側の抵抗で「いや、今は2時間待ちで…」などと明らかに席が空いているのに言われることもたまにあるようです。しかし、ますらおは「なぁに、腹が減ってちょうどよい」とそのまま2時間待つことのほうが多いので無駄でしょう。そのため、駐屯地近くに店舗を構えるスイーツ食べ放題の店は、たくさん食べられてしまうフワフワのケーキではなく、バナナが入ったような重めのケーキで襲撃に備えようとしています。
飲み会こそが本番!酔っぱらいはリヤカーで駐屯地に帰宅
夕方頃になると、街に潜伏していた陸上自衛官達が巣から出てくるようになり、駅前の広場や駐屯地近傍の商店街に集結するようになります。彼らにとって飲み会こそが本番であり、昼間の活動はあくまでもウォーミングアップにすぎません。
なお、いくら飲み会が好きでも、外泊が許されていない場合は夜の門限までに帰る必要があります。飲みすぎて足腰が立たなくなっている人がいる場合、タクシーに詰め込み、駐屯地の営門まで連れていきます。そしてリヤカーを引いた若手がやってくるので、そこに放り込み隊舎まで運んでいきます。リヤカーがない場合は、段ボールなどの運搬に使用するキャリアーに酔っぱらいを乗っけて運んでいきます。まるで魚河岸のマグロですね。
ますらおライフは、多少の差はありますが大体はこんな感じです。もちろん、このような姿はメディアで放送されることはありませんし、一般社会で暮らしている人が目にすることもありません。ただ、このような感じでますらお達は暮らしているのです。
ぱやぱやくん
防衛大学校卒の元陸上自衛官。退職後は会社員を経て、現在はエッセイストとして活躍中。名前の由来は、自衛隊時代に教官からよく言われた「お前らはいつもぱやぱやして!」という叱咤激励に由来する。著書に『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』『陸上自衛隊ますらお日記』(どちらもKADOKAWA)などがある。
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