〈実録〉一人晩酌中に携帯電話を取り出し「もちもち~、パパでちゅよ。」驚愕の第一声…Xフォロワー24万人超・元陸上自衛官が見た「鬼教官達」の素顔

〈実録〉一人晩酌中に携帯電話を取り出し「もちもち~、パパでちゅよ。」驚愕の第一声…Xフォロワー24万人超・元陸上自衛官が見た「鬼教官達」の素顔
(※写真はイメージです/PIXTA)

「強く堂々とした、立派な男子」を意味する言葉、「ますらお」。もはや死語に近いともいえますが、日本にはその消えゆく「ますらお」達の育成教育を行う組織がいくつかあります。その一つが陸上自衛隊です。新隊員や幹部候補生は、「ますらおの卵」から立派な「成虫のますらお」になるために、一体どんな訓練をしているのか。元陸上自衛官・ぱやぱやくん氏の著書『陸上自衛隊ますらお日記』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、世間が知らない陸上自衛隊(ますらお)の実態を紹介します。

<前回記事>【逸話】「剛健マンション」に住み、毎朝「剛健点呼」。なんでも“剛健”をつける幹部候補生学校…そこで育った「陸上自衛隊(ますらお)」たち、こうなる

自衛隊に必ずいる「鬼教官達」の正体

まず、自衛隊の訓練と聞くと、皆さん想像するのは「鬼教官」ではないでしょうか? ハリウッドの軍隊映画でも鬼教官は物語のいいアクセントとして登場します。『愛と青春の旅だち』で士官候補生をしごくフォーリー軍曹、『フルメタル・ジャケット』で新兵をしごくハートマン先任軍曹など、映画を見て「軍隊=鬼教官」のイメージがついているのではないかと思います。

 

イメージの通り、自衛隊には必ず「鬼教官」がいます。しかし、彼らがなぜ鬼教官になるかというと、サディスティックな性格で「新隊員をしごくのが好き」という理由からではありません。新隊員や幹部候補生に、「自衛官としての規律・心構え」を教える必要があるからです。小銃や兵器を取り扱う彼らに緊張感を持たせ、チームとして一体感を抱かせるために厳しく接する必要があるのです。

あくまで「鬼教官を演じている」だけで、本当は優しい人が多い

ただ鬼教官と言えど、常に厳しいわけではありません。彼らが厳しくするパターンは大抵決まっています。よくあるケースとしては、新隊員や候補生が「手を抜いている」「一生懸命やっていない」といった状態に陥っている際に、カツを入れます。というのも、時には教官が鬼にならないと怪我や事故にも繋がるので、彼らは隊員に厳しく接する必要があるのです。

 

一方で、陸上自衛隊に長年いると、段々そういった大人の事情が分かるようになります。入隊して数年後に「レンジャー課程」や「陸曹課程」などに進んだ際に「あ〜、やっぱりこのタイミングでくるよね」となります。私の同期は、新隊員教育の区隊長を担任した後に幹部レンジャー課程に行ったので、「教官が締め付けてくるタイミングが分かるから、キツいというよりもだるかった」と組織慣れした発言をしていました。

 

ただ、陸上自衛隊にいる限り、時がくれば自分も鬼教官役をやらなければいけません。そのときに「今の自分に鬼教官役なんてできない」と焦って必死に勉強して、学生達から舐められないように鬼教官のキャラクターを自ら作り上げるのです。そして、鬼教官の役目が終わって一息ついたと思ったら、今度はまた学生の立場に戻り、別の鬼教官から熱烈指導を受けることもあります。鬼教官と学生はまるで鬼ごっこのように交代するので、自衛隊歴が長い人は、「あの鬼教官は俺が新隊員教育で厳しく鍛えた教え子なんだ…」というなんとも切ない一幕が誕生することもありがちです。

 

なお、鬼教官達はあくまで演じているだけなので本当は優しい人が多いです。自衛隊も厳しい人を教官に設定するのではなく、勤務態度が良く、ある程度人柄が良いますらおを選んで教官に指定します。彼らは日常から怒り狂っているわけではないので、中には「俺が教官なんてできるのだろうか…?」という戸惑いを感じながら、一生懸命に鬼教官を演じている人もいます。教官は教官で緊張する場面も多く、大変なのです。

 

特に、20代半ばの3尉や3曹が教官役を行うと緊張で失敗をすることもあります。緊張しすぎて、有毒なガスから身を守るための防護マスクの使用方法を教える際に、「目をつぶり、呼吸を止めて、マスクを付ける」というところを「目をつぶり、心臓を止めて、マスクを付ける」と言った人も実際にいました。

“台風系”鬼教官、娘には「もちもち口調」の優しいパパだと判明

私が幹部候補生学校で出会った区隊長はとても厳しく、まさに鬼でした。朝礼後に教官室に行くと「何が言いたいか分からない!!」と言われ、整理整頓が上手くいっていないと「お前らは自衛隊をなんだと思っているんだ!!」と激怒し、台風が発生することもしばしばありました。

 

ちなみに、台風とは、整理整頓不良時に鬼教官が部屋の物品を全て吹っ飛ばすことを指します(部屋に猥褻〔わいせつ〕本があれば反省文が要求されます)。現在は「パワハラだ」という意見もあり、あまり行われなくなったようです。が、一昔前はほぼ強制的に発生するイベントでした。

 

その鬼教官は、徒歩行進訓練で候補生がへばれば、「体力がなくなるのは体を鍛えていないからだろー! 辛そうな顔するんじゃない!」と言い、訓練中の食事の準備で誰かが不機嫌になれば「はい、不機嫌な感じだからお前らはお預けだ」と30分間も食事の前で候補生を待機させました。お預けを受けた候補生達はしょぼくれた顔をして、「赤飯」と「たくあん」、「ます野菜煮」の缶詰を見つめていました(鎌倉武士のご馳走みたいなメニューですね)。そうしたことが続いたので、候補生の間では「教官の家に隕石が落ちないかな」とブラック企業に悶え苦しむ社員のような会話をしていたのです。

 

そんな教育期間中の休日、私は、心のやすらぎを取り戻しに同期数名と久留米市内の焼き鳥屋に行きました。しかし、同期と酒を飲みながら談笑していると、なんと鬼教官が一人で来店してきたのです。当然、「最悪だ。とにかくばれないようにしよう」と心の中で思ったのですが、横目で彼を見ると普段とまったく違う穏やかで優しい顔をしていることに気が付きました。

 

その鬼教官は一人で晩酌をしていましたが、しばらくすると携帯電話を取り出し「もちもち~、ゆいたんでちゅか? パパでちゅよ。元気でちゅか?」と通話を始めました。そこには鬼教官の姿はなく、単身赴任中のお父さんが娘と話している姿だけがあり、「ああ、この優しいパパの顔が鬼教官の本当の顔なんだ」と私は悟りました。そして思ったのです。「ゆいたんのパパに隕石を落とすのはよそう」と。

 

そのまましばらく娘と話している様子を見ていると、教官が急に私達のほうを振り向き、目が合いました。彼は一瞬驚いた顔をして、お互いになんとも気まずい雰囲気になり、私達は逃げるように店を後にしました。

 

翌日の朝の点呼が終わると、鬼教官が「おい」と言って私のことを指さしました。「お前は残れ」と低い声で言われ、私一人残されて、何を言われるんだろうとビクビクしていると「お前は昨日何も見なかった。聞かなかった。いいな」と言われました。その顔は、昨日のゆいたんのパパの顔ではなく、いつもの鬼教官の顔でした。しかし、私にはその日から鬼教官ではなく「ゆいたんのパパ」が一生懸命に頑張っているように見えるようになりました。

 

このように、鬼教官とはあくまでも演じているだけであり、本当は優しい人が多いのです。

 

 

ぱやぱやくん

防衛大学校卒の元陸上自衛官。退職後は会社員を経て、現在はエッセイストとして活躍中。名前の由来は、自衛隊時代に教官からよく言われた「お前らはいつもぱやぱやして!」という叱咤激励に由来する。著書に『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』『陸上自衛隊ますらお日記』(どちらもKADOKAWA)などがある。

 

※本連載は、ぱやぱやくん氏の著書『陸上自衛隊ますらお日記』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

陸上自衛隊ますらお日記

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ぱやぱやくん

KADOKAWA

【SNSで話題沸騰中の元陸上自衛官・ぱやぱやくんが描く、愛とユーモアに溢れた自衛隊ライフがついに書籍化!】 「陸上自衛隊」と聞くとみなさんはどんなイメージがありますか? おそらくは戦車に乗っている姿、災害派遣…

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