<前回記事>
〈実録〉一人晩酌中に携帯電話を取り出し「もちもち~、パパでちゅよ。」驚愕の第一声…Xフォロワー24万人超・元陸上自衛官が見た「鬼教官達」の素顔
陸上自衛隊(ますらお)は良き家政夫/ 婦でもある
陸上自衛隊に入隊して最初に学ぶことは、実は家政夫/婦としての技術です。自衛隊は、規律の維持のために、裁縫・アイロン・靴磨き・清掃等を徹底的に行います。つまり、「優れたますらおとは優れた家政夫/婦でもある」と言えるでしょう。
入隊初日は「裁縫」を実施。古のドラゴン柄の裁縫セットを召喚
入隊初日、ますらおの卵達には、まず制服や迷彩服、ジャージが渡され、支給された衣服に自分の名札や階級章をチクチク縫っていくことになります。そのため、小学校や中学校の家庭科の授業で、「男には裁縫なんていらねぇよ!」と適当にやってきた人達は初日で挫折を味わいます。
このようにマストで裁縫があるので、「裁縫セットを用意してきてください」という事前の指示があることも多いです。この指示を受けた新隊員達は、「うちに裁縫セットってあったっけな」と考え、多くの場合「そういえばドラゴンの裁縫セットあったな」と思い出し、「小学校の授業で使った押入れに封印されしドラゴン裁縫箱」を解放します。そう、義務教育がここで発揮されるのです。
実は、小学校のときに購入する裁縫セットは高品質で各種針セットが揃っているので名札などを縫いやすく、ドラゴンパワーで序盤を圧倒的な優位のうちに進めることができます。一見すると恥ずかしい柄ですが、みんなジャガイモみたいな頭をした新隊員なので、裁縫セットの柄をバカにする奴なんていないのです。
陸上自衛隊(ますらお)とアイロンは友達
裁縫の次に教えられるのが、アイロンがけです。自衛隊では、アイロンがけのことを「プレス」と呼びます。ますらおは服をバリバリのカチカチにするのが大好きなので、制服、迷彩服、ハンカチと、布を見ればなんでもプレスをします。
重要視されるプレスのポイントは「シワが一つもなく、折り目にエッジが効いている」ことですが、「セガサターンのバーチャファイター」のようなカクカク具合が理想だとイメージして頂ければいいでしょう。そのため、全体重をかけて汗まみれでプレスをしている人も見かけます。どんなに訓練で泥まみれになって、ずぶ濡れになっても、翌日はパリッとした服装で登場するのが、ますらおとしての生き方なのです。
熱々のアイロンでレトルトカレーを温める強者(マネしないでください)もおり、ますらおとアイロンは友達といえます(その結果、アイロンの損傷率は高めですが)。
靴磨きには命を懸けろ。毎日汚れるブーツも翌朝にはピカピカ
自衛隊では「靴は心を映す」と言われており、とにかく手入れをして磨きます。毎日の訓練で半長靴(ブーツ)が泥だらけの傷だらけになることも多いですが、しっかりと夜に手入れをして、翌日の朝は「鏡面磨き」済みの輝いた半長靴で訓練に臨むのです。
鏡面磨きとは「鏡のように反射する磨き方」で、ますらおは靴の先をテッカテカのピカピカにすることに命を懸けます。この靴磨きを学んだ元自衛官が「自衛官が教える魔法の靴磨き!」という謎の動画を出しがちなので、見てみるといいでしょう。
逆に、靴がボロボロの人はメンタル不調の可能性もあるので、「心の信号」として読み取ることもできます。たかが靴磨きですが、されど靴磨きでもあるのです。しっかり靴を磨いてこそ、ますらおといえます。
陸上自衛隊(ますらお)の家事力はプライベートでも最大出力
制約だらけの生活を送っていたますらおは、結婚後も家のことをパートナーに任せっぱなしではなく自ら参加するようになります。ただ、謎にレベルが高いので、「アイロンのかけ方はこうじゃない」「その窓の拭き方じゃ二度手間になる」など家事に対する指摘を行い、喧嘩になることもしばしばあるようです。
細かいことは気にしないように見えるますらおですが、実は細かく整理整頓や掃除をするのが得意なのです。
ちなみに「不器用な自分じゃ入隊できない!」という人にも救済処置があるので、ご安心ください。プレスや靴磨きが苦手な隊員はお金で解決できます。駐屯地によっては、ありとあらゆるものをピカピカにしてくれるクリーニング屋さんがあります。それを利用すれば、戦闘服をカッチカチのキレッキレにしてくれるのはもちろんのこと、靴や装具までピッカピカにしてくれるでしょう。お金でプレイを有利に進めたい重課金勢のますらお向けですね。
ぱやぱやくん
防衛大学校卒の元陸上自衛官。退職後は会社員を経て、現在はエッセイストとして活躍中。名前の由来は、自衛隊時代に教官からよく言われた「お前らはいつもぱやぱやして!」という叱咤激励に由来する。著書に『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』『陸上自衛隊ますらお日記』(どちらもKADOKAWA)などがある。