70歳までいまの勤め先で安泰に働けるか?
2021年4月には、法律が改正され、従業員に対する70歳までの雇用確保措置が努力義務となり、70歳までの定年引上げや、70歳までの継続雇用制度の導入、定年廃止などが求められています。自分の今の勤め先は大企業なので70歳まで安泰、と考えている女性もいるかもしれません。
しかし、大企業側はより高い価値を生み出す人材へと入れ替えるための新陳代謝を進めることが予想されます。既に、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)前の段階からもそのような傾向はみられます。
東京商工リサーチによれば(※6)、業績が堅調な大企業で、早期・希望退職者を募っていました。2020年12月7日までに上場企業の早期・希望退職者募集が90社に達していることが明らかになっており、募集社数は、リーマン・ショック直後の2009年(191社)に次ぐ高水準なのです。
この理由としては、バブル期に大量入社した40代から50代社員による年齢構成のアンバランスさの改善や、将来の事業を考慮した上での人材の新陳代謝が理由として挙げられます(※7)。業績が堅調な大企業に勤めていても、自分の経験やスキルが、勤め先の中で価値を認められなければ、そこで働き続けることは難しい時代となっているのです。
また、新型コロナは私たちの働き方を変え、多くの企業がテレワークへの移行を迫られることとなりました。企業によっては、毎日フルタイムでテレワークができるところもありますが、週に数日程度と決めているところもあります。頻度や時間は企業によって多様ではあるものの、今後もテレワークはますます進むと考えられます。
欧州では、複数の国がここ数年、週休3日(週4日勤務)制度の導入や検討を行っています。日本でも、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2022」(※8)の中で、育児・介護・ボランティアでの活用、地方兼業での活用等につながるよう、企業における週休3日制度導入を促し、普及を図ることが明記されています。
私たちの働き方は、時間と場所、いずれにおいても働きやすい環境になることが想像できます。働きやすい職場環境が整備されることは、自分の専門性が明確な方にとっては良いのですが、そうでない場合、成果の創出が難しいという点もあります。
テレワークの増加などを背景に、企業の人事制度設計もジョブ型雇用人事制度へ移行するところが増えてきており、職場で明確な成果を出すことがますます求められるようになります。
さらに、現在は専門性が高いスキルを有していても、専門性以上に(あるいは専門性があることは前提とした上で)、新しいアイデアやイノベーションの創出が求められる時代です。働く時間を柔軟に選択できることは、仕事がしやすくなるというメリットがありますが、時間にとらわれない分、今後は、アイデアの創出等付加価値の高い仕事がますます求められるということなのです。
年齢を経れば、誰でも体力の低下から、生産性の低下は免れません。より厳しい時代になるからこそ、その時代について行くことには大きな努力が伴います。精神的にもつらい努力をしなければならないくらいなら、定年を考えるタイミングで、自分のやりたいことをより追求していける分野で働くという選択肢を考える、あるいは、少しずつそのための準備をしていくことも大切なのではないでしょうか。
※6 東京商工リサーチ「今年の上場企業「早期・希望退職」90社に リーマン・ショック後2番目の高水準」。
※7 東京商工リサーチ「2019年 上場企業「希望・早期退職」実施状況」。
※8 経済財政運営と改革の基本方針2022。
小島 明子
日本総合研究所創発戦略センター
スペシャリスト