土地を相続で渡すほうが良いケース
以下で紹介するケースに該当する場合は、土地を相続で渡すとメリットが大きくなる可能性があります。生前贈与ではなく、相続で渡すことを検討してみると良いでしょう。
財産額が相続税の基礎控除額以下の場合
遺産の総額が相続税の基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。一方で生前贈与の場合は、贈与税の配偶者控除のような特例制度を使えなければ一般的に年間110万円を超す額に対して贈与税がかかってしまいます。生前贈与よりも相続のほうが税金を安く抑えられる場合、税負担を軽くするためには相続で渡すほうが得策といえます。
相続税の特例による節税効果が大きい場合
前述のとおり、相続税には配偶者控除や小規模宅地等の特例など節税効果が大きな特例制度があります。土地を生前に贈与すると、相続税の特例制度が使えず結果的に税負担が増える場合があり、税金を安く抑えるためには相続で渡すほうが良いケースがあります。
土地を生前に贈与しても相続放棄はできる?
生前贈与にするか相続にするか、土地の相続対策を考える際に理解しておくべきことのひとつに相続放棄との関係があります。相続放棄とは、相続人が遺産を相続せず相続権を放棄することです。
将来相続が起きたとき、何らかの理由で相続放棄を検討せざるを得ない状況になることも考えられますが、そもそも生前贈与を受けていても相続放棄はできるのか、贈与と相続の関係を押さえておく必要があります。
生前贈与を受けていても相続放棄は可能
生前贈与を受けているかどうかに関係なく、相続が開始したときに相続人が相続放棄をしたければ自由に選択できます。
相続放棄をできるのは、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から3ヵ月以内です。遺産に借金がある場合や遺産を相続しても困る場合など、相続放棄をしたい場合には期限までに手続きをする必要があります。
債務を免れるための生前贈与は取り消される可能性がある
土地や預金などプラスの財産を生前に贈与してしまい、借金だけを相続の対象にして相続人が相続放棄をした場合は、被相続人にお金を貸している債権者の請求によって生前贈与が取り消される可能性があります。
債権者の立場から考えると、貸付金が戻ってこない場合でも土地や預金などを差し押さえることで回収できたはずですが、この権利が相続人の生前贈与や相続放棄によって害されたと判断できる場合は、生前贈与が詐害行為取消権の対象になり得るからです。
相続時精算課税制度を使っているなら相続放棄をしても相続税の対象になる
相続時精算課税制度を使って生前に財産を贈与されていた場合、相続税の課税対象になるので「相続することが前提となってしまい、相続放棄はできなくなるのではないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、相続時精算課税制度を使っていても相続放棄は可能です。
相続放棄をした場合でも、相続時精算課税制度を使って贈与された財産は相続で取得したものと見なされるので、生前に贈与された財産額に基づいて相続税がかかります。
土地を生前贈与するときの注意点
土地を生前贈与すれば相続税の節税になりますが、贈与の仕方を間違えると税金が増えたり、トラブルの原因になったりするので注意が必要です。生前贈与をする場合は、以下で紹介する点に注意しながら行うようにしてください。
相続開始前3年以内の贈与は相続税の課税対象になる
亡くなる前3年以内の生前贈与は、相続税の課税対象になります。亡くなる直前に慌てて財産を贈与しても、相続税の課税対象を減らすことはできません。相続税対策として生前贈与をするのであれば、計画的に行う必要があります。今後の税制改正で、「3年」から「5年」や「10年」などへ増える可能性もあります。
家族間の贈与でも贈与契約書は必ず作成する
贈与自体は口頭での合意でも成立しますが、後々に揉めないように贈与契約書をしっかりと作成しておきましょう。家族間の贈与であっても後になってから揉める可能性はありますし、贈与契約書として明確に文章にしておかないとトラブルになる場合があります。
また、贈与契約書が残されておらず贈与の証拠が残されていない場合、相続が開始したときに税務署から生前贈与を否認されてしまう可能性があるので注意が必要です。贈与で受け取った土地は自分のものだと思っていても、生前贈与自体が否認されると土地は被相続人の財産のひとつとして相続税の課税対象になってしまいます。
遺留分を侵害すると相続開始後にトラブルになる可能性がある
一定の相続人には、遺産を最低限相続できる権利として遺留分が保障されています。生前贈与によって別の家族が相続できる遺産が減って遺留分を侵害するとトラブルになる場合があるので、土地を生前に贈与する場合は各推定相続人の遺留分に注意するようにしてください。
個別の検討が必要
生前贈与と相続を比べた場合、基礎控除額は贈与税よりも相続税が大きいので、相続のほうがより大きな金額の財産を非課税で渡すことができます。
ただし贈与税にも相続税にも特例制度があり財産の渡し方を工夫すると税金が安くなる場合があるので、生前贈与と相続のどっちがお得と一概にはいえません。土地を家族に渡す場合、渡す相手や特例制度の適用の有無などを踏まえて個別に検討が必要となります。
辻本 歩
司法書士法人みどり法務事務所 司法書士