本連載は、明治大学商学部教授の北岡孝義氏の著書、『ジェネレーションフリーの社会』(CCCメディアハウス)中から一部を抜粋し、福祉国家として確固たる地位を築いているスウェーデンが、すでに迎えている高齢化社会の年金政策として打ち出しているプランを参考にしながら、日本の年金政策の今後を模索していきます。

国民が驚いた前首相ラインフェルトの提案

以前の連載、「徹底検証――日本の公的年金制度は大丈夫なのか?」(第1回はこちら)でも説明したように、これからの高齢者は公的年金制度に頼れない。

 

少子高齢化社会は、二重の意味で国の財政を圧迫する。ひとつは、少子高齢化社会では、現役世代の労働力が不足し需要も低迷する。したがって、経済は低成長になる。低成長になれば、国の税収は伸び悩む。政府の歳入減だ。ふたつは、少子高齢化社会では、当然のことながら、高齢者が多い。したがって、年金支給総額等の社会保障費が増大する。結果は政府の歳出増だ。

 

少子高齢化社会では、歳入減で歳出増となる。当然、国の財政は悪化する。そこで、財政難を何とかしようということで、年金給付を減額することになる。その結果、高齢者の生活が年金だけでは立ち行かなくなる。

 

では、高齢者は、どのようにして老後の暮らしの安心を図ればよいのか。本当に途方に暮れてしまう。2060年には、2・5人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上(内閣府『平成26年版高齢社会白書』)という、異常なまでの超高齢化社会を迎えるのだ。日本の高齢者の生活は大丈夫なのだろうか。

 

こうした日本の現状を打開する方策はないだろうか。あるいは、少しでも参考になる国はないだろうか。そう考えて世界を見渡すと、あったのだ。スウェーデンだ。スウェーデンも年金制度に行き詰まっている。公的年金が政府の財政を圧迫している。

 

しかし、公的年金が財政を圧迫していると言っても、スウェーデンの状況は、日本と比べればはるかによい。政府の財政収支は、ここ数年、赤字を計上しているが、純額(ネット)で見た政府の債務残高はマイナス、すなわち、資産超過なのだ。

 

また、少子高齢化の問題も、日本より随分改善されている。スウェーデンの合計特殊出生率はほぼ2だ(OECD[経済協力開発機構]統計)。これに対して、日本の合計特殊出生率は1・4だ。

 

それでも、スウェーデンの政治家は財政赤字を恐れている。スウェーデンの財政状況は、日本と比較すれば健全そのものだというのに。この点が、スウェーデンの政治家と日本の政治家の意識の違いだろう。

 

スウェーデン政府は、財政赤字が将来的に拡大するのではないかと恐れ、何とかしようとしている。そこで、前首相のJ・F・ラインフェルト(John Frederic Reinfeldt:スウェーデンの第42代首相。在任期間は2006〜2014年)が打ち上げたのが、年金支給開始年齢の75歳への引き上げだ。さすがに、これには国民やマスコミは猛反発した。

 

しかし、ラインフェルトの真意は、財政難による年金支給開始年齢の引き上げだけではないのだ。国民に対して、働くことの意味を問いかけたのだ。いわば、国民に働くことの意識改革を迫ったのだ。それはどういうことなのだろうか。

現在の年金政策に見えるスウェーデン前首相の「真意」

スウェーデンでは、20世紀後半頃から少子高齢化が進み、政府の年金支出が徐々に膨らんでいった。1980年代後半に生じたバブルが1990年代初頭に崩壊し、政府の財政が一気に赤字へと転じた。巨額の政府の財政赤字のもと、とうとう公的年金制度を維持することも困難な状況に陥ったのである。

 

危機感を持ったスウェーデン政府は、持続可能な制度を目指し、1999年に公的年金制度に大ナタを振るった。それは、国民の痛みを伴うものであった。

 

従来の基礎年金と所得比例年金の2階建ての年金制度から、所得比例年金のみの1階建ての年金制度に移行した。高齢者の生活保護的な最低保障年金制度を残しながらも、国民一律の基礎年金を廃止したのだ。

 

国民にスウェーデン政府の財政状況を訴え、あえて国民の痛みを伴う改革を断行した。そして、国民はそれを受け入れた。世界は、政府に対するスウェーデン国民の信頼の高さに驚くとともに、スウェーデンの公的年金制度改革を称賛した。

 

ところが、である。その称賛のスウェーデンの公的年金制度がここに来て再び行き詰まっているのだ。

 

2012年2月、穏健党のラインフェルト首相は、年金支給開始年齢の75歳引き上げに言及した。首相のこの発言には、国民が納得しなかっただけではなく、マスコミ、野党も一斉に反発した。今度は、政府に対する不信が高まってしまった。

 

スウェーデンの公的年金制度は、日本以上に税金が投入されている。公的年金の支出に多額の税金が使われているが、その投入が難しくなってきたのである。少子高齢化が進んでいることもあるが、最大の原因は政府の再びの財政赤字だ。21世紀に入って、リーマンショック等の景気悪化や移民の急増などの要因により、スウェーデン政府の財政赤字が拡大したのである。このような状況のもと、政府としては「ない袖は振れぬ」ということなのだろう。

 

歴史は繰り返された。スウェーデンという国家は財政赤字を極端に嫌う。前政権の財務大臣A・ボルグは、「負債のある者に自由なし」という言葉を盛んに使う。当時のラインフェルト首相には、財政赤字のもとで公的年金制度を支えきれないとの危機感があり、そしてまた、国の財政が厳しい状況下で、公的年金への支出を何とか切り詰めたいという思いがある。

 

しかし、年金制度の廃止に等しいとも取れる今回の発言には、別の真意があったのだ。マスコミでは、ラインフェルトの真意が報道されていない。

 

その真意のキーワードは「働くこと」だ。

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    本連載は、2015年7月21日刊行の書籍『ジェネレーションフリーの社会』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    北岡 孝義

    CCCメディアハウス

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