遺産の大部分が故人の自宅…複数人で平等に分ける方法は?
遺産相続で最もトラブルが起こりやすいのが、故人の自宅です。その理由は分けるのが難しいからです。
家を複数人で分けるための方法はいくつかあります。以下、代表的な方法を4つ紹介します。
◆代償分割
1つは、「代償分割」([図表1]参照)。国税庁の路線価図などを参考に家の評価額を割り出す方法です。正確に評価額を出したい場合は、不動産鑑定士などのプロに頼みます。家を相続した人が、その代わりとしてほかの相続人に現金(代償金)を支払うことになります。
仮に家の評価額が3,000万円なら、1人が家を相続し、残りの2人は家の代わりに現金1,000万円ずつを受け取ります。家を相続した人が高額な現金を用意する必要があるので、この手法を使えるのはある程度の資産家に限られます。
◆換価分割
2つめは「換価分割」で、家を売却して現金化する方法です([図表2]参照)。現金なので相続人同士できっちり分けられます。
しかし、実家を売るのは抵抗がある人もいるでしょう。また、家族の思い出がつまった家を売却するということで、新たなもめごとが発生することもあります。
◆共有分割
3つめは、法定相続分に合わせて家を共同で所有(共有)する「共有分割」です([図表3]参照)。
たとえば、相続人が「きょうだい3人」だったら、1つの物件に3人の名義が入ることになります。きょうだいの代はそれでいいかもしれませんが、その子どもの代でもめることが多くなっています。
◆現物分割
4つめは、無理に分けない「現物分割」([図表4]参照)という方法です。たとえば、1人は家、1人は美術品、1人は株券といった具合に、無理に分割せず、別々の資産で平等に分ける方法です。
しかし、これは家以外に同等の価値がある資産があることが前提ですので、利用できるのはある程度の資産家に限られます。
これら4つの方法はいずれも一長一短です。自分たちの状況に合った方法を選びましょう。
故人の死後も配偶者が安心して自宅に住み続けられる権利が創設
相続が発生した場合、自宅も相続財産として、遺産分割の対象となります。そこで、配偶者にとっては、これまでと同様に家に住み続けられること、生活していけるだけのお金を確保できることはきわめて重要です。
この点について、従来は、配偶者が居住建物を取得する場合には、その代わりに、他の財産(預貯金等)を受け取れなくなるか、取り分が減ってしまうという問題がありました([図表5]参照)。
家を取得できる代わりに、その後の生活費が不足してしまうおそれがあったのです。
この問題に対処するため、2020年4月より、「配偶者居住権」が新しく創設されました。これにより終身または一定期間、配偶者に対して建物の使用が認められるようになりました([図表6]参照)。
配偶者居住権には、2つの種類があります。1つ目は「配偶者短期居住権」です。
被相続人と暮らしていた自宅の所有権が他の相続人などに渡ったとしても、一定期間は継続して住むことができる権利です。退去を要求された場合でも、最低6ヵ月間はその家で生活できるので、その間に新たな住居を探すことが可能になります。
2つ目は「配偶者居住権」で、自分が亡くなるまで自宅での居住を継続できる権利です。
住み続けられる権利(居住権)として、所有権とは切り離して考えるため、遺産分割により自宅の所有権が第三者に渡った場合でも、生涯自宅に住み続けられます。
さらに配偶者居住権のメリットは、相続後に安心して自宅に住み続けられる点だけではなく、遺産分割に関しても、これまでより配偶者に有利な扱いがされる点もあります。つまり、配偶者は自宅に住む権利を確保しながら、その他の相続財産も取得できるようになったのです。
これによって、配偶者は、被相続人の死後も、安心して生活できるようになったといえます。
岡 信太郎
司法書士のぞみ総合事務所
代表、司法書士
本村 健一郎
税理士法人TAパートナーズ
代表CEO、税理士
岡本 圭史
社会保険労務士法人カナロア
代表、社会保険労務士