(2)大規模リフォームの場合
設問のAさんは「大規模なリフォーム」を検討しているとのことですが、共有物の「管理」と「変更」のどちらに該当するかが問題になります。
先に述べたとおり、共有物の形状または効用の著しい変更を伴わない変更については、「管理」に該当しますが、そうでなければ「変更」に該当します。どちらに該当するかは、変更を加える箇所及び範囲、変更行為の態様や程度等を総合して、個別に判断されることになります。
「大規模なリフォーム」の具体的な内容が、建物の外観や構造、用途を大きく変更するようなものであれば、「変更」に該当し、共有者全員の同意が必要になると思われます。
これに対し、建物の外壁や屋上の防水等の大規模修繕工事であれば、基本的に「共有物の現状または効用の著しい変更を伴わない」ものにあたり、持分の過半数によって行うことができると考えられます(法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」31頁参照)。
設例の場合、Aさんとしては、資産価値を高めることを検討しており、その一つの案として大規模なリフォームを検討しているとのことであるため、建物の外観や構造、用途等の大きな変更を想定していると思われます。そうであれば、共有物の「変更」に該当し、共有者全員の同意を得る必要があると考えられます。
したがって、Aさんとしては、BさんとCさんの同意を得たうえでリフォーム工事を実施する必要があります。仮にCさんと連絡が取れない場合には、後述する裁判手続の利用を検討することになります。
2.共有不動産の売却を行う際のルール
共有不動産を売却することは、共有物の変更に等しいため、共有者全員の同意が必要であると解されています。
したがって、設例のAさんは、BさんとCさんの同意を得なければ、共有不動産を売却することはできません。
仮にCさんと連絡が取れない場合には、後述する裁判手続きの利用を検討する必要があります。
所在不明の共有者がいる場合、大規模リフォームや第三者への売却は可能?
1.所在不明の共有者がいる場合に「大規模リフォーム」を行うには
先に見たとおり、大規模リフォームが共有物の変更にあたる場合は、共有者全員の同意が必要になります。しかし、共有者の一人が所在不明の場合は、その人の同意を得ることができません。
このように共有者の一人の住所・居所を知ることができず、その所在が不明の場合には、裁判手続きを通じて、共有物の変更を行うことが考えられます。
裁判手続きを行うためには以下の対応が必要です。
①まず、連絡の取れない共有者について、できる限り公的な記録等により所在調査を行う必要があります。その共有者の住民票の取得や、現地調査、他の共有者からの情報提供など、必要な調査を尽くしてもなお所在が不明な場合に限り、この裁判手続きを利用することができます。
②共有物の所在地を管轄する地方裁判所に、申立てを行います。この申立ては、「所在不明の共有者以外の他の共有者の同意を得て、共有物に変更を加えることができる」との裁判を求めるものです。
③裁判所は、同申立てがあったこと等を公告します。
④一定の期間内に、所在不明の共有者から異議の届出がないときは、裁判所は、その他の共有者全員の同意により共有物の変更を行うことができる旨の裁判をすることができます。
Aさんとしては、Bさんが大規模リフォームに同意しているのであれば、裁判所の決定を得て、AさんとBさんの同意により大規模リフォームを進めることが考えられます。