(※写真はイメージです/PIXTA)

「結婚前に、離婚について話し合おう」…婚約者にこのように言われたら、どうでしょう。困惑するのではないでしょうか。しかし実際に、こうした考え方は現実的かつ実用的であると言えます。カナダのKM Pacific Investments Inc. 代表取締役の枡田耕治氏が、カナダの会計士であるKelly Lavallie氏監修のもと、解説します。

近年における「婚前契約書」の目的

裕福な年配男性が若い女性と結婚する前に、彼女に財産分与の権利を放棄させることで、金銭目的の結婚相手から自身の資産を守ろうとする。しかし、やがて男性は彼女への真実の愛に目覚め、その要求を撤回する──。北米のラブコメでよく見られる、典型的な展開にも登場する「婚前契約書」。ですが「婚前契約書」は、富裕層だけが関心を持つべきものではありません。

 

最近では婚前契約書は「婚姻契約」「結婚合意」「同居合意」と呼ばれ、夫婦関係が破綻した場合、自分自身と配偶者の双方を精神的・経済的苦痛から保護する目的で締結されることがあります。カナダでは婚前契約はまだ一般的とはいえませんが、多くの人々が夫婦関係の法的条件を調整することの重要性を認識しているようです。

 

カナダにおいて、婚前契約書が締結されていない場合、離婚時の法的権利と責任は居住地域の法律によって決定されます。しかしこの場合、すべての状況に公正な結果が得られるわけではありません。そのため、結婚契約書を用いて、夫婦の個々の状況に応じた離婚時の金銭取引について事前に合意しておくことが重要となるのです。

結婚前に離婚を想定?

まず、婚前契約の意義を理解するには、夫婦の関係が永続するとは限らないことを考慮する必要があります。「結婚前に、離婚について話し合っておこう」──このようなことを婚約者に言われたら、どうでしょうか。理解できない、と思うかもしれません。決してロマンチックとは言えませんが、現代において多くの結婚が離婚に至ることを考慮すると、現実的かつ実用的な考え方だと言えます。

 

そもそも結婚の成功とは一体何なのでしょうか? 死が夫婦を分かつまで共に過ごせば成功と言えるのでしょうか? もしくは双方が婚姻関係を終わらせるべきだと判断すれば、結婚は失敗となるのでしょうか? 夫婦関係がお互いにとって良いものであれば、困難な時期であっても共に乗り越えることができるかもしれません。しかしながら、困難が絶えず続くのであれば、離婚が最善の選択となることもあります。

 

このような視点から考えれば、婚前契約の概念はより合理的に感じられます。結婚とは法的な合意を結ぶ行為であり、婚姻関係を規定する法律を受け入れていることに過ぎません。それにも関わらず多くのカップルが法的な権利と責任について十分に理解せずに結婚を進めます。結婚前に、婚前契約について少しでも話し合うことの重要性を感じられたでしょうか。

 

婚前契約書では、具体的には資産や債務の分割方法、継続的な経済的支援の支払い義務や受給資格について取り決めることができます。また、婚姻関係が終了した場合に「共有財産」とみなされるものを明確にすることも可能です。事前の合意がなければ、これらは離婚協議で争点となり得ます。

次ページ「婚前契約書」で取り決められること

※本稿は、カナダの会計士で『Untying The Knot』(Page Two Press)の著者であるKelly Lavallie氏監修のもと、作成しています。

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