(※写真はイメージです/PIXTA)

住みたい街ランキングでもよく目にする人気の街となった「武蔵小杉」ですが、かつては京浜工業地帯の一角を担う「一大工場地域」でした。では、現在の「武蔵小杉」はいかにしてつくられたのか、東急株式会社常務執行役員の東浦亮典氏が解説します。※本連載は、東浦亮典氏の著書『東急百年 私鉄ビジネスモデルのゲームチェンジ』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。

武蔵小杉が「タワマンの街」になるまで

2019年10月、日本各地に被害をもたらした台風19号の影響で、武蔵小杉駅前のタワーマンションでは地下の電気系統が浸水し、停電や断水などの被害にあいました。現在では人気の街になりましたが、かつて京浜工業地帯の一角を担う一大工場地域でした。

 

工場撤退で“大規模な空き地”に…訪れた「再開発のチャンス」

武蔵小杉が現在のように一気に発展したのは、こうした工場群が事業所統合や海外移転などによりなくなったことで、駅周辺に大規模な空地ができたからです。川崎市は武蔵小杉を市内の第三都心と位置付けて、再開発を進めてきました。都心は云うまでもなく経済と工業の中心である川崎駅周辺、副都心は住宅地として栄える溝口/新百合ヶ丘です。

 

これらの工場跡地をフックに大きなまちづくり構想を練り上げ、規制緩和してタワーマンションを開発誘導した効果が表れました。

 

田園都市線の沿線地域における東急のように、「武蔵小杉を開発したのはこの会社」という企業はありません。いくつもの大手デベロッパーが参入して、それぞれにタワーマンションなどの開発を進めました。

 

最初に1995年に地区内初のタワーマンション「武蔵小杉タワープレイス」が建設されて以降、雨後の竹の子の如くタワーマンションが林立する街へと変貌を遂げました。

 

『東急百年 私鉄ビジネスモデルのゲームチェンジ』(ワニブックス)より
[画像]武蔵小杉に林立するタワーマンション 『東急百年 私鉄ビジネスモデルのゲームチェンジ』(ワニブックス)より

 

武蔵小杉がある川崎市中原区は、人口増加が顕著です。タワーマンションが本格的に立ち始める直前の2006年には約21万人だった人口は、直近2022年には約27万人と、この16年で一気に約6万人も増えました。全国で人口減少が問題視されているさなか、短期間でこれだけの人口増を達成している街は他に類を見ません。

「タワマン開発競争」に出遅れていた東急

実は東急はこの武蔵小杉の成長可能性を見誤り、タワマン開発競争に出遅れてしまい、いまのところ2013年に駅上のマンションと商業施設を開発したのみに留まっています。

 

これは東急の開発嗅覚の鈍さを露呈してしまったともいえますが、昔の武蔵小杉の姿を知っていただけに、これほど短期間でいまの姿に変わるとは予想しきれなかったとも言えます。

 

一方で台風による水害をはじめ、問題点も浮き彫りになりました。私は前著で武蔵小杉の問題点をこう指摘しました。

 

・ある程度計画的に造られたとはいえ、各デベロッパーがそれぞれ計画した開発なので、街全体の連携などが弱い

・鉄道駅が朝の時間帯大混雑。交通動線は急激に増えた人口を捌ききれていない

・地域住民間のつながりが弱く、コミュニティーが希薄

 

武蔵小杉の事例を見るにつけ、改めて開発にはスピードとバランスが大事だと感じます。

 

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※本連載は、東浦亮典氏の著書『東急百年 私鉄ビジネスモデルのゲームチェンジ』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。

東急百年 私鉄ビジネスモデルのゲームチェンジ

東急百年 私鉄ビジネスモデルのゲームチェンジ

東浦 亮典

ワニブックス

東急電鉄に所属していた2018年に、前作『私鉄3.0』で「電車に乗らなくても儲かる私鉄の未来」を提言した東浦亮典氏。あれから4年、電鉄業界はコロナというこれまでにないパンデミックに見舞われた。テレワークの普及で働き方が…

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