日本人の労働時間は減少している…?「残業代なし」の会社による、統計に表れない“深刻な現実”【データで解説】

日本人の労働時間は減少している…?「残業代なし」の会社による、統計に表れない“深刻な現実”【データで解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

過労死や残業代不払いが問題となり、長時間労働の問題が指摘される日本。そのような「ブラック企業」を規制する法が整備され、データ上の労働時間は減少しているように見えます。しかしその裏側には、統計には表れない「ある問題」が隠されているのです。本記事では、弁護士である明石順平氏が、著書『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』(大和書房)より、日本の労働問題の現状について解説します。

本連載の登場人物

太郎(以降、太):この先日本で働いていくことに希望はあるのかどうか、将来に不安を感じている新社会人。日本経済の現状を知るため、モノシリンとともにお金の仕組みについて学んでいる。

 

モノシリン(以降、モ):経済についてなんでも知っている妖怪。データから日本経済の未来を読み解くことができる。

残業代は出ないのに長時間働く日本人…その弊害とは

 まずは日本人がどれくらい働いているのか、総実労働時間の推移を見てみよう。

 

年間総実労働時間の推移(1993-2021年)※パートタイム労働者を含む
[図表1]日本人の労働時間は減ってきた? 年間総実労働時間の推移(1993-2021年)※パートタイム労働者を含む

 

 ずっと減少傾向が続いていて、コロナ禍が始まった2020年にがくんと落ちてるね。所定外労働時間は110時間で、このグラフの範囲内では最低の値になっている。

 

 そう。ただ、この減少傾向は労働時間の短いパートタイム労働者を含んだものだ。パートタイム労働者を除いた値を見てみよう。

 

就業形態別年間総実労働時間及びパートタイム労働者比率の推移(1993-2021年)
[図表2]フルタイムとパートタイムで分けた労働時間の推移 就業形態別年間総実労働時間及びパートタイム労働者比率の推移(1993-2021年)

 

 パートタイム労働者を除くと、労働時間はほとんど横ばいだね。コロナ禍以降は大きく下がっているけど。

 

 そうだね。そしてパートタイム労働者の比率が上がっているのが分かる。1993年は14.4%だったのが、2021年には31.3%と、倍以上になっている。こうやってパートタイム労働者が増えたから、労働時間の平均値を出すと下がっているように見える。でも、正社員が大半を占めるフルタイム労働者だけを見てみると、労働時間は減ってはいない。では次に、国際的な比較を見てみよう。

 

諸外国における年平均労働時間の推移(2000-2023年、厚生労働省)
[図表3]労働時間の国際的な比較 諸外国における年平均労働時間の推移(2000-2023年、厚生労働省)

 

 日本は、ドイツ、フランス、イギリスより顕著に労働時間が長いね。日本より長いのはアメリカと韓国か。韓国ってすごく長時間労働なんだね。でもだんだん短くなってきてはいる。アメリカは全然下がっていないね。コロナ禍以降も増えているぐらい。日本より長時間労働なんだ。

 

 そうだね。では週49時間以上労働する労働者の割合の国際比較も見てみよう。

 

諸外国における「週労働時間が49 時間以上の者」の割合(2021年)
[図表4]長時間労働者の国際的な比較 諸外国における「週労働時間が49時間以上の者」の割合(2021年)

 

 この図を見ると、日本より上にいるのは韓国だけだね。日本の週49時間以上労働者の割合はドイツの倍以上だね。

 

 そう。国際的に比較して、日本の労働時間は非常に長いことが分かるだろう。そして、実態はもっとひどい。君もサービス残業という言葉は聞いたことあるだろう。

 

 あるよ。残業代をもらわないで残業(時間外労働)することだよね。

 

 そう。残業代不払いは犯罪なのだが(「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」。労働基準法119条)、日本ではそれが横行している。サービス残業をさせている企業がそれを統計調査に対して素直に申告するはずがない。だから、労働時間の統計にはそれが表れない。したがって、本当はもっと長時間労働であると考えた方が適切だ。

 

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データで見る日本経済の現在地

データで見る日本経済の現在地

明石 順平

大和書房

働いていくために必要な、「自分ごとの日本経済」。円安、物価高、低賃金…、これからも日本で働いていく私たちには不安ばかりが募ります。「僕らは日本で生きていけますか?」という、切実な問いに対してこの本はつくられまし…

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