本連載の登場人物
太郎(以降、太):この先日本で働いていくことに希望はあるのかどうか、将来に不安を感じている新社会人。日本経済の現状を知るため、モノシリンとともにお金の仕組みについて学んでいる。
モノシリン(以降、モ):なんでも知っている妖怪。データから日本経済の未来を読み解くことができる。
「税が重いから苦しい」って本当?
モ まず、所得税、消費税、法人税の基幹3税について、日本を含めた先進国の税収を対名目GDP比で表したグラフを見てみよう。これは2020年のOECDのデータだ。
太 所得税収が38ヵ国中25位、消費税収はもっと低い29位、法人税収は7位か。日本は所得税と消費税が低くて、法人税が高いんだね。バブル崩壊後の所得税減税と、消費税を増税してこなかった影響がはっきり表れているね。
モ そう。この基幹3税の税収合計も見てみよう。
太 38ヵ国中27位。日本は他の先進国と比べると租税負担が軽いんだね。なんだか信じられないな。
モ そうだ。ところで、「日本経済が低迷しているのは消費税のせい」と主張する人がいる。それが本当であれば、消費税負担の高い国、例えばさっきのグラフで見た消費税収対GDP比上位10ヵ国の経済成長率は、日本より低くなってないとおかしいね。では本当にそうなっているのか、コロナ禍前の2019年までのデータで見てみよう。まずは名目GDP。なお、1996年を100とする指数だ。
太 日本はダントツでビリだね。104.2だから、1996年と比べて4.2%しか成長していない。一番伸びているのはエストニアで754.5。日本の次に伸びていないデンマークでも212.4だから、2倍以上になっている。
モ そうだね。ちなみにデンマークの消費税には軽減税率がなく一律25%だ。では次に実質GDPを見てみよう。
太 名目よりは差が縮まっているけど、やっぱり日本がビリだね。2019年当時で117だから17%しか伸びていない。1位のエストニアは249.9。日本の次に伸びていないポルトガルでも135.7。
モ 「消費税が重いから経済が停滞している」というのが間違いだということがよく分かったと思う。でもそれなら日本と世界の国々との間に、なぜこんなに違いが出るのか。答えは賃金だ。チリのデータが欠けているので、それ以外の消費税収対名目GDP比の上位9ヵ国と日本の名目賃金を比較してみよう。これも1996年を100とする指数だ。
太 2019年時点で、日本だけ1996年より下の95.1。一番伸びてるのはエストニアで734.2。日本の次に伸びてないのはポルトガルで176.6。日本は他の国と比較にならないね。
モ 次に実質賃金を見てみよう。
太 名目賃金より差は縮まったけどやはり日本はビリで101.3。一番伸びているのはエストニアで304.2。日本の次に伸びていないのはポルトガルで109.3。
モ これで、消費税負担が重くても、賃金が上がっていれば経済成長するということが分かるだろう。重要なのは賃金だ。「悪いのは消費税」という主張は、事実に反するうえ、「賃金低迷」という真の経済停滞要因を隠してしまう。
明石 順平
弁護士
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】