(※写真はイメージです/PIXTA)

「失われた30年」といわれるように、バブル崩壊から大きく停滞している日本経済。特に現役世代にとっては、「この先ずっと日本で働いていけるか」「今後の家計は成り立つのか」といった不安は大きく、生活に直結する身近な問題といえるでしょう。本連載では労働問題に詳しい弁護士である明石順平氏が、著書『データで見る日本経済の現在地 働くときに知っておきたい「自分ごと」のお金の話』(大和書房)より、働く世代なら知っておきたい日本経済の現状について解説します。

本連載の登場人物

太郎(以降、太):この先日本で働いていくことに希望はあるのかどうか、将来に不安を感じている新社会人。日本経済の現状を知るため、モノシリンとともにお金の仕組みについて学んでいる。

 

モノシリン(以降、モ):なんでも知っている妖怪。データから日本経済の未来を読み解くことができる。

「税が重いから苦しい」って本当?

 まず、所得税、消費税、法人税の基幹3税について、日本を含めた先進国の税収を対名目GDP比で表したグラフを見てみよう。これは2020年のOECDのデータだ。

 

出所:OECD 所得税収対GDP比(2020年)
[図表1]世界と比べた日本の所得税収 出所:OECD
所得税収対GDP比(2020年)

 

出所:OECD 消費税収対GDP比(2020年)
[図表2]世界と比べた日本の消費税収 出所:OECD
消費税収対GDP比(2020年)

 

出所:OECD 法人税収対GDP比(2020年)
[図表3]世界と比べた日本の法人税収 出所:OECD
法人税収対GDP比(2020年)

 

 所得税収が38ヵ国中25位、消費税収はもっと低い29位、法人税収は7位か。日本は所得税と消費税が低くて、法人税が高いんだね。バブル崩壊後の所得税減税と、消費税を増税してこなかった影響がはっきり表れているね。

 

 そう。この基幹3税の税収合計も見てみよう。

 

出所:OECD 基幹3税対GDP 比
[図表4]3つの税を合計してみると 出所:OECD
基幹3税対GDP比

 

 38ヵ国中27位。日本は他の先進国と比べると租税負担が軽いんだね。なんだか信じられないな。

 

 そうだ。ところで、「日本経済が低迷しているのは消費税のせい」と主張する人がいる。それが本当であれば、消費税負担の高い国、例えばさっきのグラフで見た消費税収対GDP比上位10ヵ国の経済成長率は、日本より低くなってないとおかしいね。では本当にそうなっているのか、コロナ禍前の2019年までのデータで見てみよう。まずは名目GDP。なお、1996年を100とする指数だ。

 

出所:OECD 消費税収対GDP比上位10ヵ国との名目GDP比較(1996-2019年)※1996年=100
[図表5]消費税が高い10ヵ国の名目GDPを比較すると 出所:OECD
消費税収対GDP比上位10ヵ国との名目GDP比較(1996-2019年)※1996年=100

 

 日本はダントツでビリだね。104.2だから、1996年と比べて4.2%しか成長していない。一番伸びているのはエストニアで754.5。日本の次に伸びていないデンマークでも212.4だから、2倍以上になっている。

 

 そうだね。ちなみにデンマークの消費税には軽減税率がなく一律25%だ。では次に実質GDPを見てみよう。

 

消費税収対GDP比上位10ヵ国との実質GDP比較(1996-2019年)※1996年=100
[図表6]消費税が高い国の実質GDP 出所:OECD
消費税収対GDP比上位10ヵ国との実質GDP比較(1996-2019年)※1996年=100

 

 名目よりは差が縮まっているけど、やっぱり日本がビリだね。2019年当時で117だから17%しか伸びていない。1位のエストニアは249.9。日本の次に伸びていないポルトガルでも135.7。

 

 「消費税が重いから経済が停滞している」というのが間違いだということがよく分かったと思う。でもそれなら日本と世界の国々との間に、なぜこんなに違いが出るのか。答えは賃金だ。チリのデータが欠けているので、それ以外の消費税収対名目GDP比の上位9ヵ国と日本の名目賃金を比較してみよう。これも1996年を100とする指数だ。

 

出所:OECD 消費税収対GDP 比上位9ヵ国との名目賃金比較(1996-2019年)※1996年=100
[図表7]同じく消費税が高い国の名目賃金を比較 出所:OECD
消費税収対GDP比上位9ヵ国との名目賃金比較(1996-2019年)※1996年=100

 

 2019年時点で、日本だけ1996年より下の95.1。一番伸びてるのはエストニアで734.2。日本の次に伸びてないのはポルトガルで176.6。日本は他の国と比較にならないね。

 

 次に実質賃金を見てみよう。

 

出所:OECD 消費税収対GDP比上位9ヵ国との実質賃金比較(1996-2019年)※1996年=100
[図表8]消費税が高い国の実質賃金 出所:OECD
消費税収対GDP比上位9ヵ国との実質賃金比較(1996-2019年)※1996年=100

 

 名目賃金より差は縮まったけどやはり日本はビリで101.3。一番伸びているのはエストニアで304.2。日本の次に伸びていないのはポルトガルで109.3。

 

 これで、消費税負担が重くても、賃金が上がっていれば経済成長するということが分かるだろう。重要なのは賃金だ。「悪いのは消費税」という主張は、事実に反するうえ、「賃金低迷」という真の経済停滞要因を隠してしまう。

 

 

明石 順平

弁護士

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」

 

■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ

 

■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】

 

■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

データで見る日本経済の現在地

データで見る日本経済の現在地

明石 順平

大和書房

働いていくために必要な、「自分ごとの日本経済」。円安、物価高、低賃金…、これからも日本で働いていく私たちには不安ばかりが募ります。「僕らは日本で生きていけますか?」という、切実な問いに対してこの本はつくられまし…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧