23年夏は「冷夏でもおかしくない」のに「暑くなる」…“予想外づくし”のワケ

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2023年6月23日)

23年夏は「冷夏でもおかしくない」のに「暑くなる」…“予想外づくし”のワケ
(※画像はイメージです/PIXTA)

多くの国民が注目する「身近なデータ」が、実は景気や株価と深い関係にあることをご存じでしょうか? 今回は「気候変動」の話題を取り上げ、“景気の予告信号灯”として読み解きます。エルニーニョ現象が発生するも、気象庁の予報では冷夏にはならず、夏物の消費にはプラスに働く可能性があるなど、今夏は本来とは真逆の傾向を見せそうです。※本記事は、宅森昭吉氏(景気探検家・エコノミスト) の『note』を転載したものです。

「エルニーニョ現象」発生。通常は「冷夏」をもたらすが…

~今後、秋にかけてエルニーニョ現象が続く可能性が高い(byエルニーニョ監視速報)

 

気象庁は6月9日、「エルニーニョ現象が発生しているとみられる。今後、秋にかけてエルニーニョ現象が続く可能性が高い(90%)。」という「エルニーニョ監視速報」を発表しました。エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。逆に、同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象がラニーニャ現象です。

 

1ヵ月前の、5月12日の「エルニーニョ監視速報」の「太平洋赤道域の状況はエルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない平常の状態と見られるが、エルニーニョ現象の発生に近づいた。今後、夏までの間にエルニーニョ現象が発生する可能性が高い(80%)。」という流れに沿った動きになっています。

 

5月のエルニーニョ監視海域の海面水温の基準値からの差は+1.1℃で、基準とする+0.5℃より高い値となりました。エルニーニョ現象発生の判断に使用している5ヵ月移動平均値の3月の値は+0.3℃で、+0.5℃に向け上昇傾向が続いています。

 

[図表1]気象庁・エルニーニョ監視指数、旬ごとの海面水温基準値偏差

 

エルニーニョ現象が発生すると夏は、冷夏になりやすい傾向があります。一方、エルニーニョ現象の逆現象のラニーニャ現象が発生すると夏は、暑い夏になりやすい傾向があります。

 

1981年から2022年までの42年間で7~9月期の実質百貨店・スーパー販売額(旧・大型小売店販売額)の前年同期比は平均して+0.6%の増加ですが、冷夏になることが多いエルニーニョ現象発生時の前年同期比の平均は+0.2%の増加にとどまります。逆に暑い夏になることが多いラニーニャ現象発生時の平均の前年同期比の平均は+1.6%の増加と高めで、夏物関連消費が活発になるとみられます。

エルニーニョ現象発生なのになぜ暑くなるのか?

~気象庁は「ラニーニャ現象の影響が残っている」と判断した模様

 

気象庁は6月20日に、7~9月の3ヵ月予報を発表しました。その内容は「平均気温は、東日本で平年並または高い確率ともに40%、西日本で高い確率50%、沖縄・奄美で高い確率60%です。降水量は、東・西日本で平年並または多い確率ともに40%です。」というものです。

 

「地球温暖化や、エルニーニョ現象の影響により、全球で大気全体の温度が高く、特に北半球の亜熱帯域では顕著に高いでしょう。

冬に終息したラニーニャ現象の影響が残ること、および、正のインド洋ダイポールモード現象の発生により、積乱雲の発生がフィリピン付近から西部太平洋赤道域にかけて多くなるでしょう。そのため、太平洋高気圧が日本の南で西へ張り出すでしょう。

エルニーニョ現象の影響により、偏西風は平年よりやや南寄りを流れ、本州付近ではその影響を受けやすいでしょう。

以上から、東・西日本と沖縄・奄美では、暖かい空気に覆われやすいでしょう。また、東・西日本では、南から暖かく湿った空気が流れ込みやすく、前線や低気圧の影響を受けやすいでしょう。」というのが判断根拠です。

 

日本の夏に高温をもたらす傾向があるラニーニャ現象は2021年秋に発生し、23年冬に終息しましたが、気象庁は影響が残っていると説明しています。

日本に高温をもたらす「別の海洋変動」が同時発生する可能性も

~「正のインド洋ダイポールモード現象」の影響

 

エルニーニョ/ラニーニャ現象と独立した海洋変動としてインド洋ダイポールモード現象があります。インド洋熱帯域の海面水温が南東部で平常より低く、西部で平常より高くなる場合を正のインド洋ダイポールモード現象、逆の場合を負のインド洋ダイポールモード現象と呼びます。両現象ともに概ね夏から秋の間に発生します。

 

エルニーニョ現象が発生していない時期に正のインド洋ダイポールモード現象が発生すると、結果としてチベット高気圧が北東に張り出し、日本に高温をもたらすようです。負のインド洋ダイポールモード現象については日本の天候への影響は明瞭ではないということです。

 

エルニーニョ現象と正のインド洋ダイポールモード現象が同時に発生した夏は、7~9月期の東京の平均気温は、1963年、1972年、1982年、1997年、2015年の5回とも、平年を下回っていました。

 

しかし、今年は暑い夏になるということです。

 

[図表2]過去のインド洋ダイポールモード現象の発生期間

暑くても、電力不足やそれに伴う経済活動の抑制リスクは低そう

~節電がかなり進み、「23年上半期の毎月の最大電力」は前年同月を下回る

 

通常は暑い夏になると、夏物の消費の増加とともに、冷房などの電力需要の増加による電力不足が懸念されますが、今年に関しては電力不足の可能性は小さそうです。

 

東京エリアでは今年1月~6月(6月は22日までで比較)までの半年間で、各々の月の最大電力は、昨年の同月を全て下回っています。ウクライナ情勢などで、電気代が高いため、かなり節電の動きが進んでいるように思われます。暑い夏になったとしても電力不足が経済活動の抑制要因になる可能性は小さいと思われます。

 

[図表3]東京エリア:最大電力(実績)の推移

 

 

※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。 さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。 23年4月からフリー。景気探検家として活動。 現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

 

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