免税事業者のままより、課税事業者がオトクな場合も
「消費税の負担を増やしたくない」という理由だけで免税事業者を選ぶと、逆に損をする場合があります。課税事業者になることで納税義務は発生するものの、さまざまな負担軽減策も用意されていて、その適用によって納税額を抑えることができる可能性があるためです。
例えば、図表のような年間売上110万円と経費22万円の個人事業主を例に見てみましょう。この場合、免税事業者のままでいると、企業からの値下げ交渉により、売上(税込)が10%落ちることも考えられます。
一方、インボイス登録を機に課税事業者になった場合、事務負担軽減にもつながる「簡易課税」を選ぶと、免税事業者を選択したときと比べて6万円の差が生まれ、その分手元に残る現金が増えます。また、軽減措置を適用せずに「原則課税」の場合でも、免税事業者でいるよりも3万円多く手元の現金を残すことができます。
さらに、インボイス発行事業者への転換で新たに課税事業者になったときに使える「2割特例」を活用すれば9万円の差が生じます。2割特例を活用すれば、インボイス前の売上と比べても2万円減となるため、軽い負担でインボイス発行事業者へと転換できるでしょう。
多角的に物事を見つつ最善の選択を行おう
このように、課税事業者転換後のお金の流れにまでしっかり目を向けた上で、インボイス発行事業者になるか、ならないかを検討する必要があります。図表の例のように10%の売上減に加え、免税事業者を続けることで取引がなくなったり、減ったりしては、想像以上の損失を産む可能性もあります。さまざまなケースを想定し、最善の選択を行うようにしましょう。
なお、簡易課税は基準期間の課税売上高が5000万円以下かつ前課税期間末までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した人、2割特例はインボイス制度を機に課税事業者になった人が適用対象です。
◆売上10%減と課税を比べたときの損益
●プログラマーとして働く個人事業主
●課税事業者の企業から仕事を請け負っており、年間に110万円(税込)の売上と22万円(税込)の経費がある
葛西 安寿
税理士