親に「直接の法的責任」を問えるか
ただし、そのような場合でも、親自身の不法行為責任(民法709条)を問う余地はあります。判例・学説も、上述の民法714条にかかわらず、親の不法行為責任を直接追及することができる場合があるとしています。
以下、最高裁判決(最判昭和49年3月22日)の文面を引用します。
【最判昭和49年3月22日】
「未成年者が責任能力を有する場合であっても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立する。」
本件についていうと、検討すべきは主に以下の2点です。
・親が少年に対する「監督義務」に違反したか
・監督義務違反とスシローの損害との間に「相当因果関係」が認められるか
特に重要なのは「監督義務違反」の有無であると考えられるので、この点に絞って検討します。
まず、未成年者の親の監督義務の内容は、おおむね、以下の2つのいずれかに集約されます。
【未成年者の親の監督義務の内容】
・物事の善悪について教育する義務
・少年が悪いことをしようとしていると知ったら制止する義務
◆物事の善悪について教育する義務
まず、「物事の善悪について教育する義務」ですが、これはデリケートな問題を含んでいます。尾崎豊さんの「15の夜」「卒業」の歌詞を引用するまでもなく、思春期ともなれば、大人のいうことを素直に聞いてくれないことがあります。
幼いころから明らかに教育を怠ってきたか、あるいは、少年に悪い傾向がみられるようになったのに特に教育しようともせず漫然と放置したなどの事情が認められない限り、親の監督義務違反を認めるのは難しいと考えられます。
◆少年が悪いことをしようとしていると知ったら制止する義務
では、「少年が悪いことをしようとしていると知ったら制止する義務」はどうでしょうか。
これも、特段の事情がない限り、監督義務を認めることは難しいと考えられます。
たとえば、親が現場に居合わせていたとか、少年が過去に同様の事件を起こした前歴があるとか、日ごろから類似の行為を行う悪癖があったとかの事情です。
少年に対する損害賠償請求が認められたとしても、その金額によっては、少年が実際に支払うことができるのかという問題が必ず生じます。「親に払わせればいい」と口にするのは簡単ですが、このように、法律上はきわめて難しい問題を含んでいます。
この問題については「払えるかどうかは関係なく見せしめに高額な賠償責任を負わせるべきだ」とか「親に責任を負わせればいい」などの声もよく聞かれます。しかし、私たちは、少年の賠償責任の有無・内容があくまでも世人の感情ではなく法に基づいて判断されるべきこと、親の法的責任を問うことがきわめて難しいことを十分に認識する必要があります。
もちろん、最終的な裁判所の判断においては、少年の反省の程度や、紛争解決の実効性も考慮要素となることにも留意する必要があります。
荒川 香遥
弁護士法人ダーウィン法律事務所 代表
弁護士
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