●引き続きYCC修正の有無が最大の焦点、最近の植田総裁発言などを踏まえ、その可能性を探る。
●植田総裁は先月、2%の物価目標の持続的・安定的実現が見通せる状況に至っていないと明言。
●債券市場も機能改善で今回据え置きか、今後の見通しは植田総裁の物価関連の発言に注目。
引き続きYCC修正の有無が最大の焦点、最近の植田総裁発言などを踏まえ、その可能性を探る
日銀は、植田和男新総裁のもとで2回目となる金融政策決定会合を6月15日、16日に開催します。最大の焦点は、引き続きイールドカーブ・コントロール(YCC)の修正の有無です。現在、YCCにおける10年国債利回りの操作目標はゼロ%程度で、上下0.5%程度の変動幅が設定されていますが、市場では「変動幅の拡大」や、「操作目標の年限短期化」などが修正の選択肢にあがっています。
そこで以下、最近の植田総裁の発言などを踏まえ、6月会合におけるYCC修正の可能性について考えます。植田総裁は5月19日、内外情勢調査会で講演を行い、前回4月の会合で緩和継続を決定した考え方について、よく受ける4つの質問に回答する形で説明しました(図表1)。具体的には、①物価2%超での緩和継続、②物価の基調判断、③ベアなどを踏まえた物価目標達成の可能性、④副作用の評価、の4つです。
植田総裁は先月、2%の物価目標の持続的・安定的実現が見通せる状況に至っていないと明言
まず、①について、足元の物価上昇は「海外に由来するコスト・プッシュ要因」であり、「一時的」なものとの見解を示しました。そのため、「持続的・安定的な形で」物価の安定を実現するには、緩和継続が必要と説明しました。②に関し、これだけをみれば良いという「理想的な指標」は存在せず、「需給ギャップや予想物価上昇率、賃金上昇率」、「企業に対するヒアリング情報」などを勘案しながら総合的に判断すると述べました。
③では、賃上げの動きについて「今後も継続し、定着していくか」の見極めが必要とし、物価見通しについては、「不確実性は大きい状況」と述べ、現時点で2%の物価目標は「持続的・安定的な実現が見通せる状況には至っていない」と明言しました。そして、④は、副作用だけをみるのではなく、効果との比較で、副作用が「効果をどの程度打ち消しているのか、効果を上回っていることがないか」を点検することが重要と指摘しました。
債券市場も機能改善で今回据え置きか、今後の見通しは植田総裁の物価関連の発言に注目
さらに直近の植田総裁の発言を確認すると、植田総裁は6月9日、衆議院財務金融委員会での答弁で、2%の物価目標を持続的・安定的に実現するには「まだ少し間がある」と述べました。そして、日銀が6月1日発表した、5月の債券市場サーベイでは、債券市場の機能度判断指数(DI)は、前回の2月調査から18ポイント改善し(図表2)、改善は2022年2月調査以来、5四半期ぶりとなりました。
以上を踏まえると、6月会合でYCCの修正が決定される可能性は低く、市場でも据え置きの見方が大勢となっています。したがって、今回の会合では、先行きの政策判断に関する手掛かりを探ることになると思われ、特に6月16日の記者会見では、物価に関する足元の判断と先行きの見通し、2%の物価目標達成までの距離感、そして副作用の見解についての植田総裁発言が注目されます。
(2023年6月12日)
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「YCC修正」が決定される可能性は低い。2023年6月「日銀金融政策決定会合」プレビュー【ストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト