急速な人口減少に伴い、様々な業界でマーケットの縮小が続いています。苦境に立たされる中小企業は、生き残りのためにどのようなビジネスモデルを築くべきでしょうか。本連載では、戸波亮氏の『葬儀会社が農業を始めたら、サステナブルな新しいビジネスモデルができた』の中から一部を抜粋し、新事業展開によって経営基盤強化を実現した葬儀会社の事例を紹介しながら、中小企業の生き残り戦略を探ります。

3つめのセレモニーホールと同時に仕出し業に参入

 

さらに2001年には、木更津に3つめのセレモニーホールを開設するのと同時に仕出し業に参入しました。

 

葬儀業ではお通夜のあと、親族など親しい人たちが集まって会食をしたり、告別式のあと、ご遺体を荼毘に付してお骨上げをするまでの間にお弁当を出したりします。以前はそうした料理やお弁当は料理店に外注していましたが、2001年に料理と弁当の製造・販売を手掛けるグループ会社を立ち上げたのです。

 

このときも社内に調理のプロがいなかったので、まず和食のベテラン職人を料理長として採用しました。ところが和食の職人の世界は独特で、昔ながらの徒弟制度と包丁一本の渡世が当たり前ということを採用後に知りました。

 

和食の世界に入ったときに付いた師匠一門の結束が強く、また職人気質の行き過ぎなのか、料理の味についてはもちろん仕事の仕方や休憩時間の取り方まで「こうだ」という主張があり、雇い主でもおいそれと口が出せません。

 

調理については料理長のほかはパートさんばかりなのですが、パートさんたちの作業のやり方についても料理長の指示どおりにやらないといけないということで、勤務時間を含め企業経営にまったく合いません。

 

そのやり方ではうちでは困ると伝えたところ、料理長は「それなら辞めさせてもらいます」と言って本当に翌日から来なくなってしまいました。

 

すでに葬儀での料理と弁当は内製化するよう舵を切っていたので、慌てて次の職人を募集したのですが、同じことの繰り返しです。ようやくこれではだめだと気づいた私は、自分が講習を受けて食品衛生責任者になり、パートさんと一緒に料理と弁当を作るやり方に切り替えることにしました。

 

和食店であれば料理長がいないと店のイメージに関わりますが、葬儀業ではお客さまの前で料理を作るわけではありません。おいしくてリーズナブルな値段で料理や弁当が出てくればそれで皆さん満足されます。

 

ただ、おいしい料理や弁当を作るにはやはりプロのノウハウが必要です。私は2人目の料理長がいる間に毎日、調理場に入って出汁の取り方から基本的なメニューの作り方まですべてメモしておきました。

 

一つだけ、和食の作り方で困ったのは刺身です。これについては高校の同級生で寿司屋を父親から継いでいた友人がいたので、その寿司屋に数週間、見習いに行かせてもらいました。

 

15万円分ぐらいのマグロを買ってきて使ってもらう代わりに、包丁の研ぎ方から柵どり、切り身の取り方まで教えてもらいました。お吸い物から煮物、刺身までベテランの職人がいなくてもやろうと思えばできるのです。

 

その分、材料と手間は惜しまないので、お客さまからは「おいしかった」という声をいただいています。また、調理の現場には炊飯ロボット、巻き寿司ロボット、酢飯ロボット、真空パック機、ショックフリーザー、スチームコンベクションなど調理ロボットを積極的に導入し、生産能力と生産効率を高めています。

 

葬儀業に限らず、事業の利益率を改善するには、内製化ではなく外注先にコストダウンを求めるというやり方もあり、大手はむしろそちらのやり方のほうが多いはずです。しかし、外注先にとっても一定のスケールメリットがなければコストダウンに応じてくれるわけがありません。

 

中小企業は多くの場合、外注業者にとってはそれほど重要な取引先ではなく、交渉しようとしても相手にしてもらえません。それゆえ外注業務の内製化は中小企業のほうが向いているのです。

 

私の会社の場合、生花にしろ料理・弁当にしろ、当時はまだセレモニーホールが2つだけで葬儀が毎月20件とか25件くらいだったので、こちらのキャパシティの点からも内製化がスムーズにできました。

 

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葬儀会社が農業を始めたら、 サステナブルな新しいビジネスモデルができた

葬儀会社が農業を始めたら、 サステナブルな新しいビジネスモデルができた

戸波亮

幻冬舎メディアコンサルティング

市場が縮小する業界で生き残る! 外注業務の内製化を突き進めてたどり着いた異業種参入 経営危機から8つの事業を展開、 資産総額27億円まで成長できた戦略とは―― 日本の人口が減少するのに伴って、市場規模が縮小…

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