1.概観
【株式】
5月の主要国の株式市場では、日本株の上昇が際立ちました。米国株式市場では、ハイテク株が堅調だったものの、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締め長期化への警戒感や米政府の債務上限問題が重石となり、NYダウが下落しました。欧州の株式市場は、欧州中央銀行(ECB)の利上げ継続で景気が悪化するとの懸念から下落しました。一方、日本の株式市場は、景気の安定性、金融緩和策が継続するとの期待感、東京証券取引所の株価純資産倍率(PBR)1倍割れ企業に対する改善要請などから海外投資家の買いが膨らみ、バブル崩壊後の高値を更新しました。中国株式市場は、中国経済の減速懸念や米中関係の不透明感などが嫌気され、上海総合指数、香港ハンセン指数ともに下落しました。
【債券】
米債券市場は、景気の底堅さからFRBによる利上げが続くとの観測が高まったことや、米政府の債務上限問題を嫌気して、軟調な展開となり、10年国債利回り(長期金利)が上昇しました。一方、ドイツの長期金利は、ECBによる利上げ継続が見込まれるものの、景気減速の見通しからやや低下しました。日本の長期金利は、日銀による政策修正観測が後退したことから小動きとなり、ほぼ横ばいでした。
【為替】
円相場は対米ドルで下落しました。日米金利差の拡大から月下旬に半年ぶりの安値となる140円台まで下落し、月末は139円台で終了しました。
【商品】
原油価格は、FRBによる金融引き締め長期化観測が強まり、世界景気の減速懸念が高まったことなどから下落しました。
2.景気動向
<現状>
米国の1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.3%と、2期連続で伸びが鈍化しました。個人消費は堅調でしたが、設備投資が減速しました。
欧州(ユーロ圏)の1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.3%となりました。前期比では+0.1%と、2期ぶりのプラス成長となりました。
日本の1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.6%と3期ぶりのプラス成長となりました。コロナ禍からの経済の正常化で、個人消費が堅調でした。
中国の1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.5%と、前期から加速しました。ゼロコロナ政策が終了し、旅行や外食などの消費が伸びました。
豪州の10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比+2.7%と、前期から減速しました。インフレ上昇の影響で個人消費の伸びが鈍化しました。
<見通し>
米国は、FRBによる大幅な利上げと金融不安に伴う融資厳格化で金融環境が引き締まり、企業業績が圧迫されるため、年後半に景気が悪化するとみられます。ただし、雇用が堅調なことから消費の腰折れは回避され、大幅なマイナス成長とはならない見通しです。
欧州は、低成長ながら緩やかな回復を続けるとみています。ECBの利上げ継続で23年後半には金融引き締めによる景気抑制効果が強まるものの、財政の支援、労働市場の安定、エネルギー価格の安定とインフレのピークアウトなどが景気を支えるとみています。
日本は、インバウンド消費の回復、設備投資の増加、経済対策を下支えに、内需主導の緩やかな景気回復が続く見通しです。ただし、23年度後半は欧米を中心とした海外景気の減速により、回復ペースが鈍化するとみています。
中国は、ゼロコロナ政策を終了したことから経済正常化に向けた動きが当面続くとみられます。中国社会が集団免疫が獲得されたとみられるため、年前半はリベンジ消費が増加することなどから景気回復ペースが加速する一方、その反動や不動産市場の回復の遅れもあり、年後半は鈍化するとみています。
豪州は、世界経済の減速やインフレによる消費への下押し圧力を受けて成長率が鈍化するものの、緩やかな景気回復の流れが続く見通しです。中国経済の再開や、企業の投資意欲、良好な雇用環境、コロナ下で積み上がった貯蓄、底堅い資源価格が、豪州経済を支えるとみています。