遺産わずか2,500万円だったが…「血が繋がっていなくても、僕の可愛い娘だよ」。再婚家庭で育った長女、死別で気づいた義父の愛【弁護士が解説】

遺産わずか2,500万円だったが…「血が繋がっていなくても、僕の可愛い娘だよ」。再婚家庭で育った長女、死別で気づいた義父の愛【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「家族」のあり方や結びつきは、時代とともにどんどん変わってきています。離婚や再婚、事実婚などは珍しくなく、夫婦別性や同性婚といった新しいあり方も盛んに議論されるようになった今、“昔ながらの関係”だけがすべてではないことを、連れ子の相続事例を通して見ていきましょう。高柳孔明弁護士(リーガルキュレート総合法律事務所 代表)が解説します。

事例:再婚家庭で連れ子として育ったAさん

Aさん(仮名)は幼い頃に両親が離婚し、実母と2人で生活していましたが、小学生のときに実母が再婚したことで、実母と義父との3人での生活が始まりました。

 

Aさんは内心いつも義父に気を遣っていましたが、義父はAさんにも本当の父親のように接してくれていたので、家庭は温かく、義父との関係は良好で、日々の生活から進路選択まで不自由を強いられたことはありませんでした。

 

しかし、実母と義父との間に年の離れたAさんの妹・Bさんが生まれてからは特に、自身が連れ子であることに後ろめたさを感じるようになりました。

 

その後、妹の高校卒業直前に義父が事故で急死してしまい、義父の相続が発生。

 

突然義父を失ったAさんが悲しみにくれながら義父の遺品を整理していたところ、義父の日記を発見します。

 

そこで初めて連れ子であるAさんにも義父の遺産を相続する権利があると知り、Aさんは驚愕しました。

「血の繋がらない私に、遺産を…?」

民法上、当然に相続権を有する法定相続人は、被相続人の①配偶者、②子、③直系尊属、④兄弟姉妹のみであり、配偶者を除けば血縁関係がある者だけが相続人となれる仕組みになっています。

 

もっとも、血縁関係がなくとも、養子縁組をしていた人や、被相続人が遺言を書いて相続人として指定していた人は、相続人となることが可能です。

 

今回、義父の相続が発生しましたが、義父の遺産について相続権を有しているのは、義父の配偶者であるAさんの実母と、義父の実子であるBさんの2人です。

 

連れ子であるAさんは、義父にとっての子には当たりませんので、本来義父の遺産について相続権はありません。

 

ではなぜ今回、Aさんは義父の遺産を相続する権利を得られたのでしょうか。

Aさん本人が知らなかった「戸籍上の変化」

遺品の整理をしている中で、Aさんが義父の部屋で見つけたのは、数年前に書かれた義父の日記でした。

 

そこには「血が繋がっていなくても、Aは僕の可愛い娘だよ。養子縁組で今日から戸籍上も本当の親子になれて嬉しい。」と書いてあったのです。

 

養子縁組をしていることなど聞いたことがなかったAさんは驚き、急いで戸籍を取得してみたところ、たしかにAさんは義父の養子となっていました。

 

知らない間に義父の養子になっていたAさん。しかしAさんの知らない間に義父がAさんを養子にすることなど可能なのでしょうか。

「普通養子縁組」と「特別養子縁組」

養子縁組は、血縁関係のない人や、血縁関係はあるが直接の親子関係にはない人(孫や甥・姪など)との間で親子関係を生じさせる制度です。

 

養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。

 

普通養子縁組は、原則として下記の要件を満たす場合に、養親と養子との合意(養子が15歳未満の場合は養親と養子の法定代理人との合意)により、役所に届け出ることで効力が発生します。

 

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①養親となる者が20歳に達していること

②養子となる者が養親となる者の尊属又は年長者でないこと

③配偶者のある者が未成年者を養子とするときは、配偶者とともに縁組を行うこと

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ただし、未成年の養子が配偶者の子や孫、又は自分の孫などでない場合や、後見人が被後見人を養子とする場合は、家庭裁判所の許可が必要です。

 

その他、養親又は養子が外国人の場合も家庭裁判所の許可が必要となることもあります。

 

普通養子縁組は、養親と養子が親子関係となるうえ、実親との親子関係も継続するため、養子となった子は、実親と養親の両方の相続人となることができます。

 

法定相続分の割合について、民法上、実子と養子とは区別されていませんので、被相続人に実子と養子がいた場合、実子と養子の相続分は平等です。

 

これに対し、特別養子縁組は、家庭裁判所への申立てが必要であり、養親及び養子の年齢等、普通養子縁組と比べて厳しい要件が定められています。特別養子縁組が成立した場合、実親との親子関係が消滅するため、養子は実親の相続権を失うことになります。

Aさんの養子縁組は「義父」と「実母」で届出された

Aさんの場合、Aさんがまだ中学生の間に義父が養子縁組の届出をしていたようでした。

 

養子となるAさんが15歳未満だったので、その法定代理人であるAさんの実母と義父との合意があれば、Aさんが知らない間にAさんを義父の養子にすることが可能だったのです。

 

日頃から義父が実子であるBさんとAさんとを同じように扱ってくれていても、連れ子であることについて後ろめたさを感じていたAさんでしたが、義父はAさんのそんな気持ちに気付いてくれていたようです。

 

Aさんが実母から聞いたところによると、Aさんがいつも義父に気を遣っていることに気付いていた義父は、その解決方法として、Aさんを養子にする方法で自分の子にすることを思いつき、実母と相談を重ねたうえで、縁組の届出をしてくれていたとのことでした。

遺産を得たことより、義父の愛情が何よりも嬉しかった

養子縁組により、Aさんも義父の遺産を相続する権利を有していますので、義父の相続人は実母とAさん、Bさんの3人ということになります。

 

急死だった義父は遺言を書いていなかったため、遺産の分割方法は相続人間の協議で決まります。

 

未成年者は遺産分割協議に参加することができず、特別代理人の選任を裁判所に請求する必要がある場合もありますが、高校卒業前のBさんはすでに18歳で成年に達していたので、自分で遺産分割協議に参加することができました。

 

義父の遺産2,500万円の分割方法について3人で話し合った結果、法定相続分どおり、義父の配偶者である実母が遺産の2分の1、義父の子であるAさんとBさんが遺産の4分の1ずつを相続することに決まりました。

 

Aさんは義父の子として、義父の遺産2,500万円のうち、4分の1の財産である625万円を無事に相続することができました。Aさんにとっては、遺産を得られたことよりも、義父が自分のことを本当の親子として大切に思ってくれていたと知り、義父の愛を感じられたことが何より嬉しかったそうです。

血縁だけではない、大切な人と「家族」になる方法

昨今は家族のあり方が多様化しており、それぞれが自らの思い描く「家族」のかたちを様々な方法で実現していく流れにあるといえます。

 

今回のAさんのように、養子縁組の制度を用いることで、血縁関係がない相手とであっても、法律上の家族になることが可能です。

 

法律上の家族であることがすべてではありませんが、大切な人と「家族」になる方法のひとつとして、養子縁組という手段を用いることも考えてみてはいかがでしょうか。

 

 

高柳 孔明

リーガルキュレート総合法律事務所 代表、弁護士

 

1976年、神奈川県横浜市出身。2001年、東京大学法学部卒業後、表参道総合法律事務所パートナー弁護士を経て2012年にリーガルキュレート総合法律事務所を設立。現在に至る。

 

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