(※写真はイメージです/PIXTA)

日本政府が抱える巨額の財政赤字は、常に問題視され、議論の的となっています。財政赤字の解消のため、さまざまな方法が検討されていますが、ここでは「きょうだい間に生じた相続」限定で、高率の相続税を課税する方法について考察したいと思います。どのようなメリットがあるのでしょうか。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

増税すべきか否かは議論があるが…

日本政府は財政赤字が巨額で、借金も積み上がっています。だからといって日本政府が破産するわけではありませんが、可能であれば借金を減らすほうがいいには違いありません。

 

問題は、増税によって景気が腰折れしてしまうリスクをどう避けるか、ということだと思います。所得税や消費税等の増税は、景気にマイナスの影響が大きいので、所得税等を増税するならば、10年待つべきだと思います。10年経てば、少子高齢化による労働力不足で「増税で景気が悪化しても失業が増えない」時代になるからです。

 

この点については、拙稿『日本政府は破産しない。なぜなら、投資家には「日本国債を買う理由」があるからだ』をご参照いただければ幸いです。

 

しかし筆者は、増税するなら相続税がいいと考えています。相続税増税は痛税感が小さく、景気への影響も非常に少なく、貧富の格差の是正にも資するからです。

 

ちなみに、消費税は増税すべきではありません。消費税は買い物をするたびに重税感を感じさせて消費意欲を減退させますし、増税前の買い控えと増税後の反動減という景気の不必要な変動をもたらすからです。

きょうだいが相続する場合には高率の相続税を

懸命に働いて稼いだ給料から所得税を徴収されたり、物を買うたびに消費税を徴収されたりすると、痛税感が大きいでしょう。これが増税によって増すことで、働く意欲を阻害したり、消費意欲を阻害したりしたら、経済に与える影響は甚大です。

 

一方の相続税は「たまたま親等が資産を持っていたから、棚ボタで遺産が入った」だけなので、その一部を税金で徴収されても痛税感は小さいでしょうし、相続税を払いたくないから稼がない、という人も少ないでしょう。むしろ、相続税で取られるくらいなら生きている間に使おう、という人が増えれば経済にプラスかもしれません。

 

また、論理的ではありませんが、汗水たらして働いた人から税金を取るよりも棚ボタで相続した人から税金を取るほうがよい、というのが筆者の感覚です。

 

配偶者の場合には、2人で協力して財産を築いたという場合も多いでしょうから、そうした場合には相続税を課すべきではないでしょうが、子どもの場合には相続税を増税しても問題ないと思います。そして、筆者がとくに強く増税を主張するのは、被相続人に親も子もいない場合に遺産を相続する「兄弟姉妹」に対するものです。

 

子であれば、親が「子に相続させるために倹約して貯金したのに相続税を徴収される」という重税感を感じる場合もあるでしょうが、兄弟姉妹の場合にはそうしたケースは稀でしょう。

 

子がいない被相続人という点に着目すると、彼(女)が老後に受け取っていた年金は、他人の子が納めた年金保険料から支払われていたわけです。それなら、使い残した分は次の世代の子ども達のために相続税として納めてもらう、というのが公平なのだろうと思います。

 

人口動態を考えると、兄弟姉妹への増税は効果が大きそうです。子のいない人は増えていますので、数十年以内に彼らの遺産のたとえば半分が相続税になるとすると、何百兆円の税収が見込めるでしょう。政府の借金が1,300兆円であることを考えると、非常に重要な税収だと思われます。

 

加えて、相続税を増税しても、景気へのマイナス効果はわずかでしょう。遺産が入ったら、一気に使うという人は少ないでしょうから、長期間にわたって消費が少しずつ増えると見込まれるわけで、それが相続税増税によって減ったとしても、景気の変動をもたらすことは考えにくいでしょう。

 

貧富の格差に関しては、価値観の問題なので論じにくいですが、貧富の格差を是正すべきだと考えるならば、相続税の増税は有力な手段の一つでしょう。

 

ちなみに日本では、「金持ちに課税しよう」というと高額所得者への課税を考える人が多いようですが、巨額の銀行預金を持っていながら所得税も住民税もほとんど払っていない高齢者も多いと思われます。

 

本来であれば、マイナンバー制度を用いて税務署が国民の金融資産等をしっかり把握し、資産課税を行なうべきだと思いますが、次善の策として、相続が発生したときにしっかり資産内容を調べてしっかり課税する、ということが望ましいと思います。

 

相続税を増税すると金持ちが海外に移住してしまう、と心配する人も多いようですが、若い億万長者はともかくとして、高齢者の「上級庶民」で海外に移住しようと考える人は多くないでしょう。

 

ちなみに、資産課税という観点からは、固定資産税の増税も選択肢です。これは東京一極集中の是正にも資するので、大いに推奨したいと思います。別の機会に詳述します。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「幻冬舎ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「幻冬舎ゴールドオンライン」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

 

 

塚崎 公義
経済評論家

 

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