日本国債、投機的な格付けの引き下げで「投げ売り」へ
ある格付機関が、日本国債の格付を「投機的」に引き下げた。機関投資家の中には、「投機的格付の債券には投資しない」と謳って投資家から資金を預かっている所も多く、そうした所は自動的に日本国債を売ることになった。
「機関投資家の売り」による国債価格の暴落は容易に予想できることであり、多くの国債保有者は手持ちの国債を売り急いだ。そんな売りがさらなる国債の暴落を促進することになった。
金融の世界は恐ろしい。皆が危ないと思うと、皆が売るので本当に危なくなる、ということが起こり得る。株価の暴落は、人々が危ないと思い売ることで事態が一層悪化し、それがさらなる悪化を招きかねないのだ。銀行の取り付け騒ぎも同じ原理である。
日本国債の場合は、価格が暴落しても国債保有者が困るだけで、日本政府は直接的な損失は被らない。しかし、新しい国債が発行できなくなるので、既発国債の償還資金が手当できないし、明日からの財政支出が行なえなくなるので公務員の給料も払えないだろう。
非常に高い金利を付ければ新しい国債を発行することは可能だろうが、そんなことをしたら「日本政府は高い金利支払いによって借金が雪だるまのように膨らむから、近いうちに破産するに違いない」という投資家たちの確信を強めてしまうだけだろう。
既発国債の償還や財政支出を日銀に印刷させた紙幣でおこなうことは、理論的には可能であろうが、そんなことをしたらハイパーインフレになりかねない。ただでさえ「日本政府が破産しそうだから、日本円を実物資産に換えておこう」と考える人々が大勢いるときに巨額の紙幣を供給することは高い確率でハイパーインフレを引き起こすだろうから、禁じ手である。
こうなると、日本政府は為す術がない。それを見越した投機家たちは、国債の空売りを仕掛けるだろう。国債を借りてきて売ってしまい、暴落したところで買い戻して借りた国債を返す、という取引である。国債が値下がる方に賭けるバクチをするわけだが、日本政府に為す術がなければ高い確率で勝てるため、思い切って賭けることができるだろう。それによって、国債はさらに暴落するはずだ。
こうして人々は国債を売りまくったため、国債価格は暴落を続けた。買い手はほとんど存在しなかったが、政府が必死に買い支えたため、額面100円の国債がかろうじて30円で取引され、1日の取引を終えた。
日本国の通貨が暴落!
日本政府が破産するとなれば、日本国債以外にも暴落するものがある。日本国の通貨である。破産寸前の日本政府の子会社が印刷している紙幣など持っていたくないため、人々はなんとか日本円を取り替えようと考えた。
不動産等の購入でも、食料品の購入でもいいのだが、手っ取り早いのは外貨であるから、猛烈なドル買いが発生した。ドルを売る人は少なかったが、日銀の必死の為替介入によって、かろうじて1ドル300円で踏みとどまっていた。
人々は、この世の終わりを意識した。薔薇色の夢を描いているのは、日本国債をカラ売りしている投機家だけであった。
政府の記者会見の「衝撃的な内容」
その日の深夜、日本政府は、記者会見を開いた。会場は異様な雰囲気に包まれており、テレビ中継の視聴率は非常に高かった。誰もが政府の破産宣言を確信し、その瞬間を自分の目で見たいと皆が考えていたのだ。
総理大臣が口を開いた。「金融市場の混乱は収束し、我々は勝利しました」。何が起きたのか理解できた人はほとんど居なかったので、会場はそれまでとはまったく別の異様な雰囲気に包まれた。
総理は続けた。「日本政府は1.3兆ドルの外貨準備を持っていました。それを1ドル300円で売却し、390兆円を調達しました。それを用いて国債を購入しました。額面100円の国債を30円で購入したため、額面1,300兆円分の国債を手に入れることができました。つまり、日本政府は発行済み国債をすべて買い戻し、実質無借金になったのです。」
安値で国債を叩き売った人々、高値でドルを買い漁った人々は、呆然としていた。更に青ざめていたのは、国債をカラ売りしている投機家だった。借りている国債を返済しなければならないのだが、いまや日本国債を持っているのは日本政府だけである。日本政府に頼み込んで国債を買わなければならないが、何円で売ってくれるのだろうか。まさか日本政府が法外な高値を吹っ掛けてくることは無いだろう、と信じるしか無いのであった。
残骸の整理がスタート
嵐は去った。投資は自己責任であるから、投資に失敗して破産した投資家たちのことは放っておけばよいだろう。ただし、何事にも例外はある。銀行である。
銀行が倒産すると経済が大混乱しかねない。倒産しなくても、自己資本が減るだけで銀行が貸し渋りをすれば経済は混乱するだろう。ちなみに、銀行には自己資本比率規制が課されているので、銀行は自己資本の12.5倍までしか貸出ができないのだ。そこで、銀行が大損をして自己資本が減ると、減った自己資本の12.5倍まで貸し出しを減らさなくてはならず、貸し渋りを余儀なくされるのだ。
そこで政府は、銀行に優先株を発行させてそれを買い取ることにした。将来銀行が利益を稼ぎ、それを買い戻すという条件である。優先株の購入代金は国債発行でまかなった。その国債を買ったのは銀行である。
翌朝、日本経済は何事も無かったかのように動きはじめた。投資家や投機家を別とすれば、一般の人々の生活は元通りだったからである――。
日本政府は、国債が暴落しても破産しないワケ
上記のシミュレーション、いかがでしたか? 楽しんでいただけたか否かは別として、以下、なぜ大逆転が起きたのかを考えてみましょう。
一般に、金融の世界では、皆が危ないと思うと本当に危なくなります。「あの会社は危ない」と皆が思えば「金を返せ!」という要求が殺到して資金繰りが破綻するでしょう。銀行の場合は預金者が預金の引き出しに殺到する「取り付け騒ぎ」が起こります。資金繰りが破綻すれば、多くの場合破産手続きに移行するでしょう。
しかし、例外もあります。巨額の借金をしているとしても、それがすべて期限付き社債であったとすれば、返済要求はすぐには来ませんから、社債を保有者が投げ売りするのを待って、暴落した社債を自分で購入する(買い戻す)ことで借金を「事実上消す」ことが可能かもしれません。
本稿のシミュレーションでは「円が暴落→政府が持っている外貨が高く売れる→売却代金で暴落した国債を買い戻す」という設定になっていますが、本質は同じです。
当然ですが、本稿のシナリオが実現するとは限りません。たとえば政府が1.3兆ドルの外貨準備を1ドル200円のときに売ってしまい、暴落した国債を額面の7割の値段で買い戻してしまえば、資金不足で巨額の国債が市中に残ってしまうからです。
その意味では、政府の破産を皆が信じて、円レートや国債価格が暴落すればするほど政府が元気になる可能性が高まる、という奇妙な状況が成立し得るわけですね。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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