95歳で逝去した創業者の父…「次男・長女にも株を5%ずつあげたい」の親心がアダに! 後継者の長男を苦しめる弟・妹との「骨肉の争い」【専門家が警告】

95歳で逝去した創業者の父…「次男・長女にも株を5%ずつあげたい」の親心がアダに! 後継者の長男を苦しめる弟・妹との「骨肉の争い」【専門家が警告】
(※写真はイメージです/PIXTA)

同族会社の事業承継・相続については、税金対策を中心に様々なスキームがあります。しかし、安易にそれらを利用したせいで、かえって後継者が苦しむケースもあります。外資系生保会社のエグゼクティブ・ライフプランナーとして数多くの同族企業の事業承継・相続の問題に取り組んできた石渡英敬氏が、失敗例を題材に解説します。※本記事は、石渡英敬氏の著書『新 事業承継・相続の教科書~オーナー経営者が節税よりも大切にしたいこと』(翔泳社)から一部を抜粋、再編集したものです。

妹の主張と長男の苦悩

「私、父さんには冷たくされてきたわ。その分、遺産はたくさんもらわないと納得できない」

 

「おまえが出入り禁止になっていたのは、夫のせいだろ。おやじに資金を出してもらっておきながら、ホテル経営には失敗するし、レストランを開業しても閑古鳥が鳴くし。おやじにきちんと義理を果たしていなかったから、おやじはおまえの夫を遠ざけたんだ」

 

「その状態をそのまま放っておいた兄さんは、あまりにも冷たかったわ。私と父さんの間に入って仲裁してくれても良かったのに。父さんの会社をもらっておきながら、新規事業で苦労した私たちのことを悪く言うのはやめて」

 

「2人とも、会社をもらったもらったと言うけどな、時代は変わっているんだ。ここ20年の会社の業績を知っているか? 赤字が続いているんだ。2人ともそこまで言うなら、ぜーんぶ任せてやるから、会社経営をやってみろ!」

 

90歳を越える母は、子どもたちの言い争いを聞いておれず、自室に引きこもってしまいました。

 

次男や妹が年商100億円のF社のビジネスを回していけるはずがない。そんなことは、長男は重々わかっていました。

 

昭和の時代に膨大な利益を積み上げてきたものの、平成に入ってからはバブルが崩壊、ZARAやユニクロといったファストファッションが台頭し、今や服もインターネットで買う時代となり、アパレル業で利益を出し続けることが容易でないのは、社長になってからの30年で骨身に染みていました。

 

救いは、長男が3代目を継ぎたいと言ってくれていたことでした。

 

「この相続をまとめて、弟や妹から株式の買い取りを進めないと、息子に継がせたくても継がせられない。いっそのこと会社を売って、現金を子どもたちに残してやりたいくらいだが……、公益財団や従業員持株会のくっついた会社を、誰が買ってくれるだろうか?」

 

遺産分割の話し合いがまとまらないまま、F社はコロナ禍に見舞われ、百貨店での売上が一時期ゼロになるなど、本業は大打撃を受けます。

 

コロナ禍のため、弟や妹との協議の場をリアルで設けることもできず、相続税の申告の期限(相続から10カ月)を超えてしまいました。

 

「おやじが遺言をしてくれていればなぁ。自分もなかなか遺言を勧めることはできなかった。もう少し強く言えなかったものか……。悔やんでも悔やみきれない」

 

2代目社長の入った暗いトンネルは、なかなか出口を見いだせそうにありませんでした。

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新 事業承継・相続の教科書~オーナー経営者が節税よりも大切にしたいこと

新 事業承継・相続の教科書~オーナー経営者が節税よりも大切にしたいこと

石渡 英敬

翔泳社

同族企業の事業承継・相続はなぜ難しいのか? 税金対策だけに目を奪われると、本質を見失ってしまう! 法律だけでは解決が難しい問題を、13の事例を元に解説しています。 ※特定の個人が識別できないように改変済み。 ど…

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