資産管理会社の「田分け」を後継者は許容できるのか?
F社の創業者は本社ビルと併せて賃貸オフィスビルを建て、それを資産管理会社で所有し、本体とテナントから年間2億円を超える賃料収入を得ていました。
長期にわたって現金が資産管理会社に蓄積され、それを妻40%、長男20%、次男20%、長女20%の持株割合で所有させていたのです。
地価が上がる前から不動産の価値に着目し、本業と並行して不動産事業を進めてきた創業者の才覚は素晴らしいものでした。
問題は、それが「田分け」されており、かつ、本体株式の15%を支配している点です。
創業者の死後、長男以外が結託すれば、後継者である長男は、資産管理会社から追い出されてしまうリスクにさらされ、かつ、本体の15%分の支配権を失うのです。
資産管理会社は本体の株式15%ならびに本社ビルのみならず、ほかにも本業に関係する資産をもっていたため、後継者としては、資産管理会社の支配を失うことは避けねばなりませんでした。
さらに、次世代に会社を継がせていく場合、もしもこの田分けが次世代(次男・長女の子どもたち)にも行われてしまうと収拾がつかなくなってしまいます。
長男は、次男・長女から何とかして株式の買い取りをしなければならない立場になりましたが、2人は頑として応じません。
2人は「この株は簡単に売らない。なぜなら父さんが『困ったときには会社に高く買ってもらえ』と常々言っていたから。役員として給与ももらい続ける権利がある」と主張しました。
この遺産分割協議の難航は、後継者にとって大変なストレスですが、並行して、分散した株式の集約も、大きなストレスとなりました。そこへコロナ禍が追い打ちをかけたのですから、後継者の心労はいかばかりでしょう。
創業者は持株会や財団法人などを駆使して株式の相続を進めたのですが、そうしたさまざまなスキームが、事業承継対策の本質を見えにくくしてしまったようです。
石渡 英敬
プルデンシャル生命保険株式会社
エグゼクティブ・ライフプランナー