「コーヒーをこぼしてやけどを負った女性」…アメリカの大手飲食チェーン店を相手に、賠償金「約3億9000万円」の陪審員評決を勝ち取ったワケ

「コーヒーをこぼしてやけどを負った女性」…アメリカの大手飲食チェーン店を相手に、賠償金「約3億9000万円」の陪審員評決を勝ち取ったワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

1990年代に米国で起きた「マクドナルド・コーヒー訴訟」の全貌を、NY州弁護士・秋山武夫氏が解説していきます。

2万ドルの支払いを求めたが…「話にならない」額

リーベックさんはマクドナルド社に2万ドル(260万円)の支払いを求めました。が、同社の答えは800ドル(10万4000円)を支払うとのことでした。話にならない額です。

 

もとはといえば自分がこぼして負ったやけどです。リーベックさんは悩みましたが、マクドナルド社の冷たい対応に腹が立ち、テキサス州のリード・モーガン(Reed Morgan)弁護士に相談し、マクドナルド社を相手取ってニューメキシコ州連邦地方裁判所に訴訟を起こすことにしました。

 

不当に危険なコーヒーを販売したマクドナルド社に「重大な過失」があり、損害賠償の義務があると訴えたのです。

 

訴訟前に改めてマクドナルド社に和解を持ちかけましたが、同社は当然のように拒否しました。「コーヒーはどのチェーン店でも同じように提供している」、「リーベックさんは自分でコーヒーをこぼした」、「マクドナルド社には落ち度はない」、それがマクドナルド社の答えでした。

 

強気に見えたマクドナルド社でしたが、訴訟が始まると次々と不利な証拠が出てきます。

 

一つは、マクドナルド社がコンサルタントやコーヒー業界のアドバイスを採り入れ、風味を引き出すためにコーヒーを沸騰寸前の温度に保っていたことです。同社のマニュアルには、最適な味を得るためコーヒーは華氏195度から205度(摂氏90~96度)で抽出し、180度から190度(同82~88度)で保持しなければならないと書かれていました。

 

これは通常より20~30度高い温度です。また、カップには注意書きがありましたが、極めて見づらいものでした。さらにもう一つ重要なことがわかりました。マクドナルド社では過去10年間にリーベックさんと同じような苦情を700件受けていたのです。やけどを負った人の中には子どもや乳幼児もおり、重度のやけどで治療に数年を要した人もいました。

 

これに対しマクドナルドの幹部は、「レストランで出す食事のほうが危険だ」と、特にとりたてて警告しない選択をしたと証言しました。

次ページマクドナルド社の姿勢が「悪質だ」とされたワケ

※本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『司法の国際化と日本』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。

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