(※写真はイメージです/PIXTA)

日本政府の巨額の財政赤字は、しばしば不安視され、識者たちの間でも活発な議論が交わされています。なかでも「将来の子どもたちに返済させることになり、世代間不公平である」という意見がありますが、実際はどうなのでしょうか。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

「財政赤字」だけでなく、「遺産」にも注目を

「財政赤字は、我々の世代が使った金を子ども達に返済させるものだから、世代間不公平だ」という人がいます。狭い見地からは、そういうこともいえるでしょうが、子ども達の世代は我々の世代から遺産を相続します。

 

我々世代の家計の金融資産は約2,000兆円あり、子ども達の世代はそれだけの財産を手にします。一方で政府の借金は1,270兆円しかありませんから、その分だけ増税されても、差し引きすれば約700兆円の受け取り超過になるはずです。

 

実際には、子どもの世代は不動産等々も相続するでしょうから、遺産の額は2,000兆円を大幅に上回るはずです。一方で、政府が所有する財産も巨額ですから、将来の増税額は1,270兆円より少ないはずです。したがって、子どもの世代の受け取り超過額は、700兆円より大幅に大きくなるはずなのです。

 

問題は、遺産が相続できる子とできない子のあいだの「世代内不公平」があることです。筆者としては、相続税を増税する(特に兄弟姉妹が相続する場合)、固定資産税を増税する(東京一極集中を緩和するという副次的効果あり)等がよいと考えていますが、その話は本稿の関心事項から離れますので、別の機会に。

財政赤字を減らしても、子どもは「喜ばない」かも…

政府の借金が将来の増税を招くと子ども世代が可哀想だから、財政赤字を減らそう、という論者がいます。しかし、子ども世代は喜ばないかもしれません。

 

政府が借金を返済するため、筆者世代に対する増税がおこなわれたとします。筆者世代は預金を引き出して納税するでしょう。財政赤字は減り、政府の借金は減り、将来世代の増税額は減るかもしれませんが、筆者世代の預金が減るので子ども世代が相続する遺産は増税額の分だけ減りますので、子ども世代の財産額は変わりません。つまり、財政赤字を減らしても子ども世代はよろこばないのです。

 

我々世代が増税された場合、預金を引き出して納税するかわりに倹約して納税するかもしれません。そうすれば、筆者世代の預金は減らず、子ども世代が喜ぶ、と考える人もいるでしょう。

 

しかし、筆者が納税のために飲み会を我慢すれば、居酒屋の収入が減り、居酒屋店員が失業して預金を引き出して生活するかもしれません。1人について考える場合と経済全体について考える場合では、結論が変わる場合があるので要注意なのです。

 

ちなみに、政府は無駄な歳出はおこなわない、というのが本稿の前提です。かりに必要ない歳出を借金で賄うということであれば問題ですが、それは必要ない歳出をおこなうことが問題なのであって、「必要ない歳出を増税で賄うから財政赤字は発生しない」ということであっても問題なのです。

「贅沢のツケを子世代に払わせるようなもの」?

「財政赤字は、我々世代が贅沢をした代金を子ども世代に払わせるようなものだからケシカラン」という人がいますが、筆者はそうは思いません。我々世代が倹約しすぎたから財政が赤字になっているのですから。

 

バブル崩壊後の長期低迷期、景気対策として巨額の支出がなされて来ました。景気対策が必要なのは、我々が倹約して消費をしないからです。我々が贅沢をしていれば、景気対策としての財政支出は不要だったはずです。

 

景気対策としての歳出がおこなわれただけではありません。増税をしようとすると「増税して景気が悪化して失業が増えると困るから増税はやめよう」ということで増税がおこないにくい状況が続いていたわけです。これも、我々が贅沢をしなかったからです。増税されて財布の中身が減っても贅沢をやめないのであれば、政府は気楽に増税できたでしょうが、そうではなかったのです。

「子のクレカで買い物するようなもの」??

例えとして「財政赤字は子どものクレジットカードで買い物をするようなものだからケシカラン」という人がいますが、これもおかしな議論かもしれません。ケース分けをして考えてみましょう。

 

親が金持ちで十分な財産を残せそうな人であれば、子どものクレジットカードで買い物をしても問題ありません。自分のカードで買い物をすれば遺産が減るので、子どものカードで買い物をする代わりに十分な財産を残す、ということならば、上記の議論と同じことだからです。

 

親が貧しくて食事や薬が満足に買えないときに、子どものカードで最低限の食事や薬を買うことについては、子どもも認めてくれるでしょう。

 

問題は、親が「子どものカードが使えるから贅沢をしよう」と考える場合です。自分のカードなら我慢するが、子どものカードが使えるから飲みに行く、というのであれば、子どもが文句を言うのは当然です。子どもが文句を言って親が飲みに行かなくなっても、困るのは居酒屋であって、居酒屋は赤の他人だからです。

 

しかし、政府の場合には事情が異なります。政府が国債を発行して減税をすれば、国民の懐が潤いますし、景気対策として公共投資を実行すれば、建設会社と建設労働者が恩恵を受けます。景気がよくなりますから、税収が増えるかもしれません。反対に、政府が借金するのをやめると、赤の他人ではなく国民が困るので、子ども世代が文句をいって公共投資をやめさせると、建設労働者の子ども達が困る、といったことが起きかねないのです。

 

政府を家計に喩えることの問題点については、前回の拙稿『【令和5年、新規の国債発行額35兆6230億円】国の借金は巨額だが…日本国が「金持ち」だと断言できるワケ』を併せて御参照いただければ幸いです。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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