(※写真はイメージです/PIXTA)

日本政府は毎年多額の国債を発行するなど借金を重ね、累積赤字は軽く1000兆円を超えています。この途方もない借金の金額を見て、このままでは日本政府が破綻するとハラハラしている人も多いようですが、心配は無用なのです。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

日本の借金、他国から借りているわけではない

「国は赤字だ」「国の借金は巨額だ」という話を聞いたことがあると思いますが、これは、日本国が外国との取引で赤字になっている、日本国が外国から借金をしている、という意味ではないので、誤解のないようにしたいものです。

 

ここで「国」というのは、地方公共団体と区別する意味で、中央政府のことを「国」と呼んでいるわけです。中央政府と民間部門の間の取引として、中央政府が赤字になっており、結果として「中央政府が民間部門から借金をしている」ということであり、外国との関係を示すものではありません。

 

ちなみに、ここでは地方公共団体を含めた「広義の民間部門」と中央政府との関係、と考えることにしましょう。また、中央政府は海外とは取引していない、と考えることにしましょう。

日本国と海外との取引は「大幅な黒字」

日本国内の中央政府と民間部門の取引を記録したのは「財政収支」ですが、日本国と海外との取引を見るのは「国際収支」です。とくに、黒字か赤字かが重要なのは「経常収支」です。経常収支というのは、貿易収支に海外との利子配当の受払等を加えたもので、「日本国の家計簿」のようなものだと考えればよいでしょう。そして、日本国の経常収支は大幅な黒字なのです。

 

日本国の経常収支が大幅な黒字を続けているため、日本国は海外との関係では莫大な資産を持っています。日本の輸出企業が海外から持ち帰ったドルを日本人投資家が購入して、それで米国の株や国債を買っている、というイメージでしょう。

 

国が赤字なのに日本国が黒字だ、ということは、民間部門が政府との取引でも海外との取引でも黒字を稼いでいて、政府にも海外にも金を貸している、ということです。

 

これは、一家の主婦(または主夫、以下同様)が夫(または妻、以下同様)から家事の礼として小遣いをもらってそれを夫に貸し、パートで働いて稼いだ金は銀行に貯金している、といったイメージです。これなら、家計は外から借金をしているわけではなく、むしろ貯金をしているわけですから、安泰ですね。

 

借金取りに追われたり、担保となった自宅を追い出されたりする心配はありません。「お金を返して!」「小遣いを減らすぞ!」といった夫婦喧嘩は起きるかもしれませんが(笑)。

 

日本政府が莫大な借金を背負っているときに、日本国が海外との関係でも赤字で借金を背負っているとなれば、事態は深刻かもしれません。外国人投資家にとっては、日本国債を持つことは信用リスク(日本政府が破産するリスク)と為替リスク(円安になって損をするリスク)を両方持つことになりますから、相当高い金利を払わないと、日本国債を買ってもらえないでしょう。

 

しかし、日本国の民間部門が巨額の資産を持っていて、日本政府は日本人投資家に国債を買ってもらえればいいので、安心です。日本人投資家にとっては、米国国債は為替リスクがありますし、メガバンクに預金するより日本国債の方が安全ですから、日本人投資家は喜んで(消去法的に?)日本国債を買ってくれるからです。

家計の赤字にたとえるから、誤解を招く

財務省のホームページには、「日本の財政の状況を家計にたとえると、毎月、新たな借金をして、給料収入(税収等)を上回る生活費(政策的経費)を支出している状況です」とあります (『これからの日本のために財政を考える』財務省、令和2年7月)。

 

読み手に理解しやすいたとえを使って財政赤字の大きさに危機感を持ってもらおう、という意図なのでしょうが、このたとえは不適切です。

 

家計が赤字であれば、飲みに行く回数を減らせばいいのです。飲み屋は売上が減少して困るでしょうが、知ったことではありません。赤の他人ですから。

 

しかし、夫が妻に支払う家事の謝礼を減らせば、妻が困ります。妻は赤の他人ではありませんから、これは問題です。

 

財政赤字を減らそうと考えて増税すれば国民が困ります。公共投資を減らせば建設会社が困ります。いずれも赤の他人ではありません。飲み屋とは違うのです。

 

しかも、景気が悪化して税収が減ってしまい、財政赤字が思ったように減らないかもしれません。妻に支払う家事の謝礼を減らすために自分で家事をすることにしたら、会社の仕事が疎かになって給料を減らされた、といったイメージでしょうか。

 

筆者は、財政赤字は放置していいと考えているわけではありませんが、「財政赤字が深刻だから、景気を気にせず増税すべきだ」と考えているわけでもありません。

 

10年も経てば、少子高齢化による労働力不足が深刻化して、「増税して不況が来ても失業者が増えない」「賃金上昇でインフレになりそうだから、増税して景気を抑えてインフレを防止しよう」という時代が来ると思いますので、増税はそのときまで待てばいいだろう、と考えている次第です。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「幻冬舎ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「幻冬舎ゴールドオンライン」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

 

 

塚崎 公義
経済評論家

 

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