株式の短期投資と長期投資は、本質的に異なるもの
株式投資は「株を買って、売る」という行為ですが、短期投資と長期投資は、本質的に異なるものです。
「今日買って、明日売ろう」という短期投資の場合には、企業の価値は変化しないのに株価が変化するので、価格の変化を利用して儲けようというものですし、10年持っている予定の長期投資は、企業が生み出す価値の分け前にあずかろうというものなのです。
企業の価値が変化しないのに価格が変化するのは「人々が値上がりを予想する→買い注文を出す→値上がりする」といった理由です。それを利用して儲けようというのは、人々の予想を予想しようということですから、カジノのルーレットと同じくらい運と勘に頼ったもので、基本は「バクチ」です。
しかし、企業が物(財およびサービス、以下同様)の生産を通じて生み出す価値の分け前にあずかろうという行為は、バクチとはいわないでしょう。
企業は株主と銀行から資金を集め、労働者を雇い、材料を仕入れ、物を作って売り、売値と仕入れ値の差(付加価値と呼びます)を銀行への金利、株主への配当、労働者への賃金という形で分配します。その分け前にあずかろうというのが株式への長期投資なのです。
利益のうちで金利、配当、賃金以外の部分は内部留保という形で企業のなかに残りますが、これも株主のものとなります(後述します)。
長期投資は「100万分の1オーナー社長」になること
企業のオーナー社長は、会社設立の資金をすべて自分で拠出しますが、会社の付加価値から金利と賃金を差し引いた部分は全部自分のものとなります。
彼(女)が株式を公開すると、庶民も零細株主となるわけですが、その立場はオーナー社長と同じです。株式の100万分の1を持っていれば、会社の付加価値から金利と給料を引いた残りの100万分の1は自分の儲けになるわけです。違いは持っている株数だけです(笑)。
オーナー社長は事業を営む以上、会社が倒産して夜逃げするリスクを覚悟して金儲けをしているわけですが、オーナー社長をバクチ打ちと呼ぶ人より実業家と呼ぶ人の方がはるかに多いでしょう。
そうであれば、長期保有を前提とした零細株主のことはバクチ打ちと呼ぶより「100万分の1実業家」と呼ぶ方が相応しいですね。
オーナー社長との違いは、株価が変動するところ
オーナー社長は、株式を公開しなければ株価変動の影響を受けませんが、株式を公開すると株価変動の影響を受けるようになります。株式を保有している零細株主も、株価変動の影響を受けます。
しかし、株価は「適正な株価水準」を基本として、それを上回ったり下回ったりするわけですから、長期間保有していれば、いつかは適正な株価水準を上回ることがあるでしょう。その時に売ればいいわけですから、株価暴落を心配することはありません。会社自体の没落は、もちろん気にすべきでしょうが。
株価が適正水準を上回っても、そのまま持ち続けるという選択肢も当然あります。会社が生み出す付加価値の分け前にあずかり続けた方が得だ、と考えれば、そうすべきでしょう。オーナー社長は、そうしているわけですから。
【初心者向け解説】内部留保は株価の上昇要因
企業の付加価値から金利と賃金を引いたものが「利益」で、それから配当を引いたものが企業に残る「内部留保」です。企業が稼いだ利益のうちで、配当された分は当然に株主のものですが、内部留保も株主のものなのです。会社が解散するときは、残った資産は株主が山分けするわけですから。
もっとも、会社が解散しなくても、内部留保が増えれば株価が上昇しやすいので、会社の解散を待たずに株主は利益を得る場合が多いでしょう。これは、直感的に理解する事が可能です。ほかの条件がまったく同じで、内部留保が多い企業と少ない企業の株があれば、前者の株を持ちたいと考えるのは当然ですから。
これを言い換えてみましょう。「PBR」という指標は、株価を企業の一株あたり純資産で割った値のことで、株価が割高か割安かを判断する際に用いられるものです。
企業の利益が配当されなければ内部留保が増えていき、一株あたり純資産が増えていきますから、株価が一定であればPBRが下がっていき、割安だと判断されやすくなり、買われる可能性が高まります。
別の観点からも、内部留保の増加が株価を押し上げる要因である事が理解できます。利益のうちで配当されずに企業内に残った資金は、設備投資に使われて利益を増やすかもしれませんし、借金の返済に使われて利払いという出費を減らすかもしれません。
いずれにしても、内部留保が増えれば将来の利益を押し上げることが期待されるため、株式を購入したいという投資家が増えると期待できるわけですね。
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塚崎 公義
経済評論家
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