2022年に改正…刑罰が重くなった侮辱罪
侮辱罪の法定刑を引き上げる改正が、令和4年(2022年)6月13日に成立しました※。
この改正は、令和4年(2022年)7月7日からすでに施行されています。改正の経緯や改正による変更点は次のとおりです。
改正の経緯
侮辱罪はインターネット上での侮辱に焦点を当てた罪ではなく、インターネットやSNSが普及する以前から存在しています。
しかし、最近ではSNSなどインターネット上での誹謗中傷が社会問題となっています。インターネット上では、相手の顔が直接見えないうえ、匿名制であることも相まって、誹謗中傷がエスカレートしてしまう人もいるようです。また、有名人など会ったことのない相手に対する誹謗中傷もできてしまう点も、誹謗中傷が増えている理由の1つでしょう。
こうしたなかで、2020年には、出演していたテレビ番組に関連してSNS上で誹謗中傷を受けていた女子プロレスラーが、22歳という若さで命を絶つという痛ましい事件が発生しました。これを受けて、侮辱罪の法定刑が低すぎるとの批判が高まり、改正に至っています。
改正で侮辱罪の法定刑はどう変わったのか?
改正前の侮辱罪の法定刑は、「拘留または科料」でした。拘留は長くても30日であり、科料は1万円未満です。改正後の侮辱罪の法定刑は、「1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」とされました。
どんなケースであれば侮辱罪は成立する?
成立する可能性が高いケース
次のようなケースでは、侮辱罪が成立する可能性が高いでしょう。
■ほかの人に聞こえるように「無能」などと罵られた
職場などで、ほかの人にも聞こえるように「無能」「馬鹿野郎」などと罵ることは、侮辱罪が成立する可能性があります。
■SNS上で「キモい」などと投稿された
SNS上などほかの人も閲覧することのできる場で「キモい」「デブ」などと罵ることは、侮辱罪が成立する可能性があります。
成立する可能性が低いケース
次のようなケースでは、侮辱罪が成立する可能性は低いでしょう。
■個室で侮辱された
職場の個室などほかの人に聞こえない場所で侮辱された場合には、侮辱罪は成立しません。 侮辱罪が成立するためには「公然と」侮辱する必要がある一方で、個室でほかの人には聞こえない以上、「公然と」侮辱されたとはいえないためです。
■DMで侮辱された
1対1でやり取りをするDM(ダイレクトメール)機能を使って侮辱的なメッセージが送られた場合には、原則として侮辱罪は成立しません。上の事例と同じく、「公然と」侮辱されたとはいえないためです。
侮辱罪が成立した具体的な事例
令和2年(2020年)中に、侮辱罪のみで第一審判決や略式命令のあった具体的な事例を紹介します。なお、これらはいずれも侮辱罪の法定刑が引き上げられる前の事例であり、すべて9,000円台(9,000円もしくは9,900円)の科料に処されています。
「インターネット上の行為」が侮辱罪と認定された事例
インターネット上での行為が侮辱罪と認定された例には、次のものなどが存在します。
・SNSに「この子OO(地名)1番安い子!! お客様すぐホテル行ける!! 最低!!」などと投稿するとともに、そのSNSにおける被害者のプロフィール画面を撮影した画像を掲載したもの
・SNSの被害者に関する配信動画で「BM、ブタ」などと放言したもの
・インターネットサイトの被害法人に関する口コミ掲示板に、「詐欺不動産」「対応が最悪の不動産屋。頭の悪い詐欺師みたいな人」などと掲載したもの
X(旧Twitter)や掲示板サイトなどへの投稿はもちろん、YouTubeなど配信動画へのコメントであっても侮辱罪が成立する可能性があります。また、個人に対してのみならず、法人に対してであっても侮辱罪が成立し得ます。
「インターネット上以外の行為」が侮辱罪と認定された事例
インターネット上以外での行為が侮辱罪と認定された例には、次のものなどが存在します。
・集合住宅において、計3名に対し、被害者について「いま、ほら、ちまたで流行りの発達障害。だから人とのコミュニケーションがちょっとできない」などといったもの
・被害者が経営する事務所の道路に面したガラス窓等に「支払いは? 連絡は? にげると? フザケルナ」との文言をマスキングテープで貼付したもの
・路上において、被害者に対し、大声で「くそばばあが。死ね」などといったもの
・商業施設において、ほかの買い物客等がいる前で、視覚障害者である被害者に対し「おめえ、周りが見えんのんやったらうろうろするな」などと大声でいったもの
最近ではインターネット上での侮辱が注目される傾向にありますが、インターネット以外であっても、このような行為をすれば侮辱罪が成立します。