売れているものは、高くても売れている
それに、日本の技術力が極端に低下したというわけではありません。いやむしろ逆に、より高度なものを開発しようとすることが、市場を見えなくしてしまっている可能性だってあります。
この10年ほどの間にヒットした海外からの商品を考えてみてください。
日本ではスマホのシェアでは、アップルのiPhoneが70%近くと非常に高く、人気です。そのiPhoneの最新機種は、多くが10万円以上しています。でも製造原価は3分の1程度といわれています。
また、イギリスの家電メーカーであるダイソンの扇風機は、4万円ぐらいのものが珍しくありませんが、とても人気があります。一方国内メーカーの扇風機だと1万円前後、中には数千円のものもあります。
でも、扇風機は扇風機です。ただ風を送るだけの機械に、なぜ4万円ものお金を出すのでしょう。一言でいえば、オシャレだからです。デザインがカッコいいのです。
そしてそれは、スマホにおけるiPhoneも同じです。これだけテクノロジーが進んだ時代ですから、機能にそれほど決定的な差が出るわけではありません。
したがって、企業側が需要を喚起するような工夫、つまりテクノロジーだけでなく、消費者が魅力を感じるような工夫をした商品を提供していないという意味で、怠慢だということもあるでしょう。
しかしながら他方では、性能のよいものや優れたサービスに対しては適正なお金を払うという、我々消費者側の姿勢も大事なのではないかと思います。
昨今、円安に加え、ウクライナ紛争などの影響で原材料価格が上がっていることで、物価が上昇し始めています。でも私は、これを困ったことだとは考えていません。
少なくとも、長年にわたって「コスパ」だけを求め続け、ものを作ったり、サービスを提供したりする人のことに思いが至らず、ひたすらに金銭的価値だけを求め続けてきた我々が、「よいもの」や「よいサービス」に対しては正当な対価を支払うべきだということに気が付くチャンスだとすれば、それはむしろよいことだといっていいのではないでしょうか。
大江 英樹
株式会社オフィス・リベルタス
取締役