時代の変化で戦略を間違えた
「でもそんなことはないでしょう。だって日本は1990年代以前には、よいものを安く提供することで利益を上げてきたし、経済も大きくなったんじゃない? だからそのどこが悪いの?」こう考える人もいるでしょう。
でもそれは正しくありません。たしかに、1990年代までは「よいものを安く」というのは間違った戦略ではなかったのです。なぜなら、それまでは高度成長期で日本の人口は増えてきました。
世帯が増え、消費者も増えるということは、市場が拡大していくわけですから、放っておいてもものは売れやすく、売り上げは右肩上がりに拡大していきます。
ところが人口が減少し始め、電化製品をはじめとするさまざまなものが家庭にあふれるようになると、品物は売れなくなります。いわゆる供給過剰の状況が恒常的に生まれてくるのです。
この過程で、日本の経営者はいったい何をしたのでしょう? 本来、彼らがやるべきことは、製品の付加価値を高めて価格を引き上げるべきだったのに、それをせず、安くすれば売れるとばかりに安易に値下げを繰り返していったのです。
これは経営努力の放棄以外の何ものでもありません。
そうなると、給料が上がるはずはありません。製造業であれば、過剰供給分を輸出努力でカバーすることもできないことはありませんが、それができない国内サービス部門では、低賃金で過酷な労働を強いられることになってしまったということなのです。
もちろん、経営者ばかりを悪く言っても仕方ありません。我々消費者がひたすら「コスパのよいもの」を求め続けてきたことが、結局のところ経済が悪循環に入ってしまっている理由でもあります。
よいものやよいサービスについては、我々がそれに見合ったお金を出すことがとても大事です。「コスパがよい」のが最高と考えるのは、それを供給するために働いている人のことに思いが至っていないのではないでしょうか。