サラリーマンの3人に1人は「年収300万円以下」だが…
現在、正規・非正規社員にかかわらずサラリーマンの3人に1人は年収300万円以下だと、国税庁による「令和3年分 民間給与実態統計調査」で示されています。そういった会社からの待遇が悪くて苦労している人は、ただ入る会社を間違えただけです。もう少し大きな視点で見ると、入る業界を間違えただけです。あなたのせいではありませんし、あなたは悪くありません。
「どの業界に入るか」が年収の大枠を決める
ほとんどの人は、就職や転職するときに会社選びはじっくり考えても、業界選びまでは気が回りません。私も初めての転職ではIT業界からメーカーへと業界を移動したのですが、30歳の先輩が年収800万円だったIT業界と比べると、メーカーでは30歳後半の先輩でも年収500万円がせいぜいでした(1社目⇒2社目)。この300万円の差は決して個人の能力差ではなく、仕事の質の差でもない。会社の規模や売上の差でもない。業界全体の儲けの差だったのです。
ということは、逆にメーカーからIT業界へと業界を移動すれば、1回の転職で300万円の年収アップも不可能ではない、ということです。これは理想論でも机上の空論でもない、れっきとした事実です。そういった業界を変える転職で大幅な年収アップを成し遂げた人たちが今、続出しています。
先程も述べたように、年収に代表される待遇を決定づける最も大きな要因は「能力」ではなく「業界」です。したがって、年収アップするための転職で最も重要なことは、業界選びです。高い年収も、充実した福利厚生も、ワークライフバランスも、職場の温かい雰囲気や心地良い人間関係さえも、それを実現するためには「会社が社員一人ひとりや組織に対して投資できるほど儲かっている状態」が必要なのです。これを実現している会社に入社しないと、年収はアップしません。
「業界の違い」で待遇に差が出る
大変残念なことに、会社が儲かるかどうかは業界、厳密には業界の利益構造に左右されます。だからこそ、業界選びで待遇のほとんどが決まります。
どんなに社長が熱意を持って頑張っても、社員が涙ぐましい努力をしても、儲かる業界で儲かるポジションに位置している会社の利益には到底敵いません。そして、儲かる会社は潤沢な利益を社員に対して「投資」という名の還元をすることで能力を磨き上げ、その結果さらに儲かっていき、年収アップや好待遇を生み出しているという仕組みです。こうして業界の違いだけで社員に待遇の差がついていきます。
儲かる業界の代表であるコンサルティング業や金融・保険業と、儲からない業界の代表であるサービス・レジャー業では待遇がまったく違います。サービス・レジャー業ではどんなに一生懸命働いても、年収1,000万円に到達するのはほぼ不可能です。テレワークも難しいですし、1日10時間、年間250日以上働かなければならない会社も数多く存在します。
一方、コンサルティング業であれば、フレックスタイムや裁量労働制等での時間的自由や、テレワークによる空間的自由を謳歌しながら、年間220日しか働いていないのに30代で年収1,000万円に到達します。業界の違いだけしかないのに、待遇の違いは本当に大きいのです。
「同じ職種」でも、業界が違うだけで年収に大きな差
これは同じ職種でも同様です。たとえば儲かりやすい不動産業の人事は年収が高く、儲かりにくい宿泊業の人事は年収が低い傾向になっています。
業界の違いはあっても、同じ人事の仕事です。そこに大差はないのに、ほぼ同じ仕事内容であっても年収の差は大きくつきます。不動産業は「商品の単価が大きく儲かりやすい」、宿泊業は「誰がやっても変わらない労働が多い」からこの差があるのでは? と考えるかもしれません。「やっていることが違うからでは?」ですが、実際には「人事としてやっている仕事は同じでも、業界が違えば年収に差が出る」のです。平均すると、不動産業の人事は、宿泊業の人事の倍近い年収を貰っています。
「同じ人事でもビジネススキルや能力に激しい差があるから年収に差がつくのでは?」そんなことはありません。学歴も関係ありません。年収と能力は必ずしも比例しませんし、仕事の難易度や責任ともたいして連動しません。それだけ儲かっている会社選び以上に、儲かっている業界選びが大切なのです。
「年収は自分にとって最重要事項ではない」「今の仕事が面白いし職務内容が大事だ」と考えている人も、残業時間や年間休日数、教育体系といった待遇にまで業界選びの影響があることを把握しておくのに損はありません。「どこで働くか」の視野が広がりますから。
①業界の違いで待遇が変わること、②あなたの会社や業界ではいくらが年収の限界なのか。この2つを知っておけば、転職という手段を使って年収300万円から脱出するのは、実はたやすいことなのです。
国のデータでも、業界の違いと平均給料の関係は明らか
参考までに、国税庁が発表している業種別平均給料を載せておきます。業種とは業界を細分化したものですが、国も業種の違いだけで平均給料が全然違うことをデータとして出している=認めている、ということを知るのはいいと思います【図表】。
ちなみにメーカーへ転職した私は、2回目の転職で広告業を経て3回目の転職でIT業界へ戻りました(2社目⇒3社目⇒4社目)。業界選びの大切さに気づく、そんな転職遍歴でした。
森田 昇
10回転職したキャリアコンサルタント・中小企業診断士
何の資格も技術もないまま就職氷河期の1998年に大学を卒業、社会人となる。新卒入社した年収300万円のブラックIT企業四天王の一角(当時。その後倒産)を3年で辞めた後、2社目は1ヵ月で、3社目は2ヵ月で退職。サラリーマン生活20年間で10回の転職を経験し、年収の乱高下を味わうも「ちょいスラ転職」で年収300万円からの脱出を果たす。
この転職法を紹介した再就職支援セミナーをハローワークで100回以上開催、2,000人の転職と再就職の支援をする。Twitterフォロワー数合計13,000人。著書に『売れる!スモールビジネスの成功戦略』(明日香出版社)がある。