今後は、不況でも「転職した方が年収が上がる」時代
景気の波と同じように、転職市場にも波があります。今までは景気の波を追いかけるようにリンクしていたので、景気が良くなると「転職したほうが年収を上げられる」と転職市場は活発化し、景気が悪くなると「雇用され続けるほうが最優先」と沈静化・停滞化する。その繰り返しでした。景気がいつ良くなるのかは経済学者でさえ予測不可能ですので、転職市場の波と自分の転職時の時間軸が合うかどうかは、今まで誰にも分かりませんでした。
これからは違います。転職市場は右肩上がりに伸び続け、拡大していくからです。コロナ禍による2020年4月以降の求人数減少も2021年度中に収束し、2022年度は全業界で中途採用が活況、過去最高レベルの求人数を掲げる企業が続出しています(株式会社リクルート「【2022年下半期】転職市場の今後|全15業界の中途採用状況」より)。この流れは今後さらに加速していき、人材の需給バランスの歪みが輪をかけて大きくなり、人材争奪戦が始まり─―いえ、すでに始まっています。私たち供給側こそ転職に有利な状況がこれからずっと続くのです。
生産年齢人口の減少で「何歳でも転職可能」な世の中へ
少子高齢化による生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)の減少で、何歳からでも転職可能な時代が幕開けしました。皆さんも少子高齢化は肌で感じていることでしょう。私が通っていた小学校も、昔は1学年4クラスあったのが、今では2クラスだけ。首都圏と言われる場所でも少子化が加速しています。
出生率とともに若者層は年々減っているため、20代というだけで引く手数多な状況がすでに生まれています。これは新卒者に限ったことではなく、入社3年以内を対象とした第二新卒者の需要も大幅に増加。この流れが拡大していき、今や35歳以上のミドル層の転職も活発に行われるようになりました。今後数年以内には40代や50代、はたまた健康で元気があれば60代でもウェルカム! な世の中が到来します。
どの業界も人手不足が甚だしくなるのは国も認めていますので(総務省による「令和3年版情報通信白書」より)、「猫の手も借りたい」どころか「猫でもいい可愛いから」と、求人が人以外にも広がる可能性すら示唆されています。現実的にはAIやロボットが代替するでしょうが、それらを使いこなしメンテナンスする人間の絶対数が足りなくなるので、間違いなく年齢の壁はなくなります。コロナ禍のような例外事項があっても、転職市場の盛況は中長期的に続くと思われます。
事実、株式会社マイナビによる「転職動向調査2022年版」では、2021年の20~50代男女の正社員転職率は過去6年間で最も高くなっていると示されています。社員数が多い大企業への転職率も高くなる等、転職のチャンスタイムはまさに今これからなのです。
これまでのキャリアに一貫性や専門性がなくても大丈夫
「ジョブ型雇用」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。これは欧米で主流となっている雇用形態で、明確なジョブディスクリプション(職務記述書)のもとに雇用されるシステムです。業務内容や責任の範囲、必要なスキル等を明確に定めたうえで雇用契約を結ぶものです。
このジョブ型雇用への移行期においては、これまでのキャリアに一貫性や専門性がなくても転職可能です。パーソル総合研究所による「ジョブ型人事制度に関する企業実態調査」(2021年度版)で報告されているとおり、今でも約2割の企業しかジョブ型雇用を導入しておらず、まだまだ戦後日本の高度経済成長を支えた制度でもあるメンバーシップ型雇用が主流だからです。
ジョブ型が「仕事に人をつける」のに対して、メンバーシップ型は「人に仕事をつける」制度です。新卒の一括採用で労働力を確保したうえで、年功序列の終身雇用で離職を抑止し、企業側の都合で部署間を異動させ様々な経験を積ませるメンバーシップ型は、年功序列や終身雇用が実質破綻した現在では制度疲労を起こしています。
かといって海外のように大学で専攻した専門知識と仕事(ジョブ)を完全一致させるようなジョブ型雇用は、新卒の一括採用が続く限り全社員への導入は困難です。将来的には主流となるにしてもあと数年はかかります。
メンバーシップ型雇用の問題点を指摘して、ジョブ型雇用への転換を叫ぶ声は年々大きくなっています。しかし、その最適解を日本の企業が見つけられていない現状では、中途採用という転職市場において有用な人材と判断されるために必要なのは「学歴」や「専門性」ではなく、一貫した「キャリア」でもない、ましてや仕事の華々しい「実績」でもありません。「ポータブルスキル」なのです。
「ポータブルスキル」とは、職種の専門性以外に、業界や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキルのことです。会社が変わっても発揮できるスキルであり、コミュニケーション力やチームワーク力、リーダーシップ力といった数値では測れない能力です。そのため「売上〇億円達成!」といった誰が見ても分かる数値の実績がなくても、「ポータブルスキル」を転職先でも再現できるとアピールすれば書類選考や面接を通過できます。特殊な職種(技術職や看護師等の資格必須職、エンジニア等)でない限り、これまでのキャリアに一貫性や専門性がなくても大丈夫なのが、今のジョブ型雇用への移行期なのです。
事実、パーソルキャリア株式会社が運営する、転職・求人サービスdodaによる「採用担当者のホンネ─中途採用の実態調査」では、転職時に採用担当者が面接で見ているのは「専門性」や「スキル」より「第一印象」や「受け答えの仕方」が多くなっています。書類選考も企業に対する熱意と「ポータブルスキル」を再現できると伝えられれば通過可能であることと合わせると、転職のゴールデンタイムはまさに今これからなのです。
世界的なインフレも「転職=年収アップ」を後押し
世界的なインフレの流れにより、転職すると自然と年収アップする時代が到来しています。2022年10月時点での日本のインフレ率は3%半ばまで上昇しましたが、アメリカでは7%超。グローバル化が進む現在において、日本にもその影響が波及しています。
インフレとはモノの価値が上がって、お金の相対的な価値が下がることです。日本では長らくモノの価値が下がりっぱなしで、牛丼チェーン店を代表とした値下げ競争が著しいデフレ状態でしたが、ここへ来てインフレ傾向になっています。
「インフレになると物価高になるから生活が苦しくなる、賃金も一向に上がらないし…」という面だけが強調されますが、こと転職市場にはプラスです。インフレ時代を先取りするアメリカでは、転職することで年収が大幅にアップする人が続出しています。
会社に雇用されている社員の賃金上昇は、離職率の上昇よりやや遅れて反映されるのが常ですので、これからは給料も上がると見込まれています。しかしそれ以上に、人手不足の中でも人員を確保するために、求人票に書かれる想定年収は賃金上昇率より大幅にアップし続けています。もちろんアメリカと日本では産業構造自体違いますが、同じようにインフレ率が急上昇している欧州でも同様の事象が発生しています。世界情勢が大きく動く中で、各種原材料の価格高騰等の影響でモノの値上がりが続いている日本にも、転職すると年収が大幅にアップする時代がすぐそこまで来ているのです。
事実、転職で賃金が増加した転職者の割合は、インフレが表立っていなかった2021年でさえ34.6%と、3人に1人が年収アップを達成していると厚生労働省による「令和3年雇用動向調査結果の概要」で報告されています。やりがいや働き方を重視して転職する人も多い中での数値ですので、年収アップだけにフォーカスすると、転職のボーナスタイムはまさに今これからなのです。煽りでもなんでもなく、「各種データからも今や転職しないと収入を損する時代になった。適正な収入を貰えない世の中になった」そう言っても過言ではないでしょう。
森田 昇
10回転職したキャリアコンサルタント・中小企業診断士
何の資格も技術もないまま就職氷河期の1998年に大学を卒業、社会人となる。新卒入社した年収300万円のブラックIT企業四天王の一角(当時。その後倒産)を3年で辞めた後、2社目は1ヵ月で、3社目は2ヵ月で退職。サラリーマン生活20年間で10回の転職を経験し、年収の乱高下を味わうも「ちょいスラ転職」で年収300万円からの脱出を果たす。
この転職法を紹介した再就職支援セミナーをハローワークで100回以上開催、2,000人の転職と再就職の支援をする。Twitterフォロワー数合計13,000人。著書に『売れる!スモールビジネスの成功戦略』(明日香出版社)がある。