中小企業への「補助金・実質無利子無保証融資」が及ぼす悪影響
近年では景気低迷が続き、中小企業への補助金や実質無利子無保証融資など、中小企業を支援する財政政策が打ち出されています。
これらは、コロナ・ショックに対する一時的な対応として、効果的な支援策となることでしょう。しかし、このような支援が長期間続いたときには、重大な「副作用」があると考えられます。
現在、アメリカではGAFAMと呼ばれる巨大なハイテク企業が急成長しています。その一方、日本ではハイテク企業は生まれず、昔ながらの古い事業を営む中小零細企業がたくさんあります。なぜこのような違いが生じるのでしょうか。
ここでいう「副作用」とは、生産性の低い企業が生き残ってしまい、GAFAMのようなハイテク企業が生まれなくなるということです。古い事業を止めずに続けていると、売れない製品・サービスを売るために人件費を無駄にし続けることになります。
本来であれば、早急に廃業して新たな産業に挑戦すべきだといえるのですが、補助金や無利子融資のおかげで、面倒なことはやらず、相変わらず古い事業を続けながら生き残っているのです。
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補助金とゼロゼロ融資で中小企業の経済の新陳代謝を促進!生産性向上のための具体的な取り組みとは?
このような企業のことを、「ゾンビ企業」といいます。ゾンビ企業とは、業績が悪く回復見込みが立たないにもかかわらず、債権者や政府の支援により存続する企業として定義されます。このようなゾンビ企業に対する支援は、長期的に日本経済の衰退を後押ししているともいえるのではないでしょうか。
菅政権時代の自民党の「成長戦略会議」において、中小企業の生産性向上のため、中小企業の淘汰による経済の新陳代謝促進の必要性が議論されていました。有識者メンバーだったデービッド・アトキンソン氏(元ゴールドマン・サックスアナリストで小西美術工藝社社長)は、「低賃金労働に依存した企業は、日本社会にとっても労働者にとってもマイナス」「倒産をしてくれたほうがありがたいくらい」という主張を展開していました。
中小企業白書によれば、中小企業の労働生産性は、大企業の労働生産性を大きく下回るとされており、なんと半分以下です。これが、中小企業の従業員の賃金・給与が安い原因だといえます。
しかし一方で、労働生産性が低く、賃金・給与が安い中小企業を保護する政策がおこなわれています。
昨今、政府は「日本企業の賃上げ」を進めていますが、企業が高い賃金・給料を支払うには、労働生産性を高めなければいけません。したがって、日本経済全体で見るなら、労働生産性の低い企業が減少し、労働生産性の高い企業が増加しなければいけません。まさに新陳代謝です。
しかし、ゾンビ企業に対する補助金や無利子融資のような手厚い支援がおこなわれているため、中小企業の新陳代謝が阻害され、将来性あるベンチャー企業が出てこないのです。
新陳代謝が阻害される理由は2つあります。
1つは、ゾンビ企業が商品・サービスを売り続けることによって、市場の供給量が減少せず、値下げ圧力が働くことです。これにより、成長すべき企業が事業を拡大させることができません。
もう1つは、ゾンビ企業が労働者を雇い続けることによって、成長すべき企業の人材採用が進まないことです。これによって、ベンチャー企業で働く労働者が増えず、規模拡大が難しくなります。
結果として、日本では、ベンチャー企業を起業しようとする若者が出てこなくなり、GAFAMのようなハイテク企業が生まれにくい環境となっています。
ゾンビ企業への延命策は、事業承継に悪影響
政府の中小企業支援施策として、事業承継支援があります。近年は「中小M&A推進計画」など、M&Aを促進することによって、中小企業の生産性を向上させることが目的となっています。
しかし一方で、補助金や無利子融資でゾンビ企業を延命させていては、本末転倒だといえます。
旧態依然とした零細な町工場に、新しい製造設備を導入するための補助金が支給され、資金繰りに行き詰まった企業に無利子融資が提供されています。また、中小企業診断士の指導によって、限界を超えたコスト削減や、無謀な販路拡大が指導されています。このような経営支援が、本当に正しいのでしょうか。
古い事業を営む零細企業の経営者は、早めに引退するとともに廃業し、労働者を他社へ承継したほうがいいでしょう。承継する他社が中堅企業であれば、デジタル技術を活用する資金力があり、労働生産性を向上させることも可能でしょう。そうすれば、転籍した従業員の賃金・給与水準が上がり、彼らの幸せをもたらすはずです。
日本経済の持続的成長を図るために、情報通信技術の活用が不可欠だと言われています。コスト削減だけでなく、高い付加価値を生み出すことで、労働生産性を上昇させるからです。
もちろん、これまでゾンビ企業で雇われていた労働者が、成長する企業で働くためには、労働者自身がデジタル技術を活用できるように、新しい技能を習得する必要があります。そのための教育や訓練は不可欠です。
日本経済全体として見れば、情報通信技術そのものを提供する企業、情報システム開発をおこなう企業、情報システムの販売をおこなう企業をもっと増加させなければならないのです。
※それぞれの群の3年間の労働生産性の伸び率は以下の通り。
「業務の省力化」:該当(3.32%)、非該当(3.10%)
「業務プロセスの効率化」:該当(6.71%)、非該当(2.71%)
「既存製品・サービスの高付加価値化」「新規製品・サービスの展開」:該当(7.78%)、非該当(1.96%)
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政府は、ゾンビ企業へ無駄に税金を投じるよりも、デジタル人材の育成に税金を投じるべきではないでしょうか。労働生産性を上昇させるには、産業構造を変えなければいけないのです。
中小企業経営の現場で汗を流す経営者の気持ちは理解しますが、少子高齢化時代を生きる子どもたちに、厳しい低成長経済を引き継ぐのは問題です。未来の日本を見据え、親世代が痛みを受け入れる覚悟が必要なのではないでしょうか。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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