相続人に最低限保証される「遺留分」は、遺言でもそれを奪うことはできない…相続専門税理士が教える、絶対に押さえておきたい相続のキホン

相続人に最低限保証される「遺留分」は、遺言でもそれを奪うことはできない…相続専門税理士が教える、絶対に押さえておきたい相続のキホン
(画像はイメージです/PIXTA)

すべての人が経験することになる「相続」ですが、手続きの重要性や大変さはなんとなく知っていても、基本的な考え方や具体的な手続きまでは理解していない人は多いのです。ここでは、経営者をはじめとする富裕層の相続手続きをサポートしてきた、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が、相続について知っておきたい基礎知識を、厳選して解説します。

民法上の「相続」の考え方

財産の承継には「相続」と「贈与」という2つの方法があります。

 

相続は、故人が持っていた財産や権利義務が、法律に基づき特定の親族に引き継がれるプロセスです。このプロセスは人の死と同時に、最後の住所地で開始されます。相続人全員による遺産分割協議が必要であり、相続税申告や相続登記などの手続きが求められる場合があります。

 

贈与は、一方の当事者がもう一方に対して財産を無償で提供する契約のことです。これは、贈与者と受贈者の合意によって成立し、受贈者の承諾が必要です。遺贈は、受遺者の合意がなくても成立しますが、死因贈与は、受贈者の合意が必要です。

【相続人の確定】配偶者はいつでも相続人、それ以外は…

相続人を確定するためには、家族関係の把握が重要です。相続人は、「配偶者相続人」「血族相続人」に分類されます。配偶者は常に相続人になりますが、血族相続人は、優先順位が定められています。異なる順位の者が、同時に相続人となることはありません。

 

配偶者はいつも相続人となりますが、子どもはその範囲を確認する必要があります。親子関係は、血縁関係に基づく「実子」と、法的手続きによる「養子」に大別されます。実子であっても、非嫡出子には母親の相続権のみ認められ、認知を受けなければ父の相続権が認められません。

【相続財産と遺産分割】相続人間の話し合い&合意→遺産分割決定

相続財産の範囲は、被相続人が遺したすべての財産と権利義務が包括的に含まれます。ここには、民法上の相続財産と、民法上の相続財産ではない「みなし相続財産」があり、いずれも相続税の対象となります。

 

民法上の相続財産は、相続人間の話し合いと合意によって遺産分割が決定されます。

 

法定相続分は、相続財産を承継する割合として、民法で定められた割合をいいます。配偶者以外の血族相続人の相続分は、人数に応じて均等に分けられます。

 

遺留分とは、相続人に最低限保証されるべき権利を示します。遺言によってもそれを奪うことはできません。遺留分のある相続人は、遺贈や贈与を受けて遺留分を侵害した人に対して、その侵害額に相当するお金の支払いを請求することができます。

 

遺留分は、算定の基礎となる財産に、遺留分の割合を乗じた金額となります。算定の基礎となる財産の価額は、相続開始時に有した財産の価額に、贈与財産の価額を加算し、債務を減額して算出されます。

 

注 遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与したときは、贈与の時期を問わず、すべて遺留分算定の基礎となる財産の価額に含まれる。
[図表]遺留分算定の基礎となる財産の価額 注 遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与したときは、贈与の時期を問わず、すべて遺留分算定の基礎となる財産の価額に含まれる。

【遺産分割協議】遺言がない→相続人が話し合いで分割決定

相続が発生した際、相続人が複数いる場合は、全員で遺産を共有します。これを「共同相続」といいます。

 

相続開始時には遺言書の有無を確認し、遺言があれば、その指示に従って遺産を分割します。ただし、全員の同意があれば、遺言と異なる方法で分けることも可能です。

 

一方、遺言がなければ、共同相続人が話し合いで分割を決めます。これを「遺産分割協議」といいます。合意に至ったら、遺産分割協議書を作成し、登記や税申告などに使用します。

 

遺産分割には「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有分割」の4つの方法があります。現物分割は、遺産をその原状で分割する方法です。代償分割は、一部の相続人が遺産の現物を取得し、その代わりにほかの相続人に金銭を支払う方法です。換価分割は遺産を現金に換え、それを相続人で分け合う方法です。共有分割は、遺産を共有の財産として保持し、分割する方法です。

 

遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に分割を請求できます。調停や審判を経て、分割が決定されます。審判は、裁判官が遺産分割を決定する手続きで、審判になると法定相続分に従って分割されるケースが多いようです。

【遺言】遺言者の死と同時に効力発揮、遺留分の侵害はできない

遺言には、相続に関する指示や財産の処分、身分に関わる事項、遺言の執行に関する指示などを記録することができます。

 

遺言は、遺言者の死と同時に効力が生じます。遺言者は生前、いつでも遺言を変更または撤回することが可能であり、新たな遺言によって以前の遺言を無効にすることができます。ただし、遺留分の制度を通じて、遺族には最低限保障されるべき権利があり、遺言でもこれを侵害することはできません。

 

遺言の方式には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」などの普通方式があります。

 

自筆証書遺言は、遺言者が全文、日付、署名を自筆で記載するシンプルな方法です。紛失や改ざんのおそれがあります。公正証書遺言は、公証人と証人の立会いのもとで作成され、法的な確実性が高いという利点があります。

 

特定財産承継遺言は、遺言者が特定の相続人に特定の財産を相続させる意思表示をするもので、遺贈とは区別されます。

 

遺贈とは、遺言者が第三者に財産を与える行為であり「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。包括遺贈は、遺産全体または一定割合を指定するものであり、特定遺贈は具体的な財産を指定するものです。

 

遺言書が発見された場合、とくに自筆証書遺言の場合は、その検認を家庭裁判所で行う必要があります。これは、遺言書の真正性を確認し、遺言の執行におけるトラブルを防ぐためです。

 

遺言執行者とは、遺言によって指名された者で、遺言の内容に従って相続財産の管理を行います。相続手続きは、死亡届の提出から始まり、相続税申告まで様々な手続きの期限が決められています。遺言執行者は、財産目録の作成や、遺言の執行手続きを行います。

 

 

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

 

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【プライベートバンカー(PB)試験対策】「相続」遺産分割の基礎知識、法定相続分から遺留分まで

 

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【遺言書】自筆証書遺言・公正証書遺言など遺言書の書き方をわかりやすく解説【FP3級】

 

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