(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、マネックス証券株式会社が2023年3月23日に公開したレポートを転載したものです。

本記事のポイント

・市場の波乱劇はすでに「第2幕」に突入

・まだしばらく時間を要する「価格調整玉(ポジション)の整理」

・1番キツイところは過ぎた

利上げ打ち止めがみえるも、米国株が大幅安の理由

FOMCでの利上げ幅が市場の予想どおり0.25%となった。これでFF金利の誘導目標は4.75-5.00%(中央値4.875)。ドット・プロットが示唆する2023年末のFF金利は5.125%だから、0.25%の利上げをあと1回行えば到達する。利上げ打ち止めがみえてきた。

 

それでも昨日の米国株相場は大幅安。金融市場の動揺は収まったとはいえない状況だ。市場はいったい、なにを恐れているのだろうか。それは市場自身もわからない。市場は、自分自身がなにに怯えているのかがわからないのである。「リスクは定義できればリスクでなくなる」という箴言があるが、まさにいまの状況に当てはまる。市場はリスクの所在がわからないために疑心暗鬼になっているのである。

 

従前から述べているとおり、今回の市場の波乱劇はすでに「第2幕」に突入している。シリコンバレー銀行(以下、SVB)破綻に端を発した金融システム不安は、一定の収束に向かっているが、それに伴う金利低下をトリガーとしたポジションのアンワインディングが至るところで炸裂して、市場の下げを増幅している。

 

これまでよく知られたのは「リスクパリティ」のポジション調整だ。市場の変動が激しくなり、恐怖指数(VIX)が跳ね上がると、それに応じてリスク資産のウエイトをリスク管理上の要請によって、落とさなくてはならないために散発的な売りが続く。ポイントは、リスク管理上の要請によってというところである。バリュエーションとか相場の見通しとは関係ないのである。

 

でも、今回はVIXの跳ね上がり方は限定的なので「リスクパリティ」の売りもそれほど多くないだろう。それでも市場が落ち着くまでにはまだしばらく時間を要する。これまで何度も同じことを述べてきたが、15日に出演したモーサテ(※)の「経済視点」では、「価格調整玉(ポジション)の整理」と書いた。

※筆者広木隆氏が出演する『Newsモーニングサテライト』

 

「上昇100日下げ3日」といわれるくらいに、下げ相場は速い。買い手がいなくなった流動性の薄いなかで投げ売りがかさむので価格は飛ぶように下がる。価格面、バリュエーション面でみれば調整じゅうぶんの水準に達するが、そのあいだには「逃げ遅れた」投資家が多く存在し、玉の整理は価格調整ほど速く進まないのである。その結果、少し戻れば、やれやれの売りに押されて調整が長引くことになる。一度、相場が壊れてしまうと、このような展開になりがちである。

SVBに関するFOMCの声明文「レジリエント」の真意

さて、それでも今回の危機の――今回の波乱劇を「危機」と呼ぶなら――いちばんキツイところは過ぎた。SVB、シグニチャー銀行両者とも、スタートアップ、暗号資産といった極めて局所的なバブル崩壊による破綻であり、金融システム全体へは波及しない――と当初から述べてきた。つまり、「今回は違う(This Time Is Different.)」というわけだ。

 

しかし、カーメン・M・ラインハートとケネス・S・ロゴフ著『国家は破綻する』によれば、危機に際してエコノミストたちは毎回、「今回は違う(This Time Is Different.)」と主張するが、違ったためしがない。毎回、同じことの繰り返しだという。バブルとその崩壊、銀行危機、通貨危機、インフレ危機……。人類は幾度となく同じ危機を繰り返し経験してきた。なぜ同じ誤りを繰り返すのか。

 

そこには常に、「今回は違う」という楽観的な思い込みシンドロームがあったから。66ヵ国を対象に、800年にもおよぶ長期のデータにもとづき、危機が繰り返し発生するメカニズムを分析した結果、辿り着いた結論である。世界的なベストセラーになった同書の原題は「This Time Is Different.」である。

 

FOMCは声明文の冒頭で、“The U.S. banking system is sound and resilient.”(米国の銀行システムは健全でレジリエントだ)と述べた。

 

問題は「レジリエント」の意味である。強靭、しなやか、耐え得る力……微妙なニュアンスの違いがある。「回復力がある」とも解せる。いったんは危機的状況になっても、そこから持ち直せるということだ。ここからさら危機的な状況になっても、「最終的には」大丈夫、ということだが、深読みすれば、まだまだヒヤリとする場面があるかもしれない、ということだろう。

 

今回も、「今回も違わない」と腹を括っておいたほうがよいかもしれない。そのうえで、リスクを果敢に取りにいく。「最悪を想定し、最善を望め」である。

 

 

広木 隆

マネックス証券株式会社

チーフ・ストラテジスト 執行役員

 

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