(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、企業の評価にもESGの視点が盛り込まれていますが、M&Aではさらに「価値創造としての要素」のひとつとなっています。顧客、従業員、そして業界自体が、よりよいESGコンプライアンスを求めていることが要因です。また、ディールメーカーや投資家は「長期的な持続可能性」を求めています。最新事情を見ていきましょう。※本記事は、Datasite日本責任者・清水洋一郎氏の書き下ろしです。

業界・ディールメーカー・投資家がESGを重視するワケ

M&Aにおいて、環境・社会・ガバナンス(ESG)要素は、単なるチェック項目ではなく、価値創造のためのひとつの要素となっています。顧客、従業員、そして業界自体が、よりよいESGコンプライアンスを求めています。

 

また、ディールメーカーや投資家は、長期的な持続可能性を求めています。売却を目指す企業は、ESGの期待に応えているという証明が必要であり、企業やそのサプライチェーンは、技術を活用し、ESGを定量化するべきだといえます。

ESGの注目度が増すアジア太平洋地域

世界的にネット・ゼロ・エミッションへの政策転換が進むなか、ESGガイドラインは価値創造の源となっています。例えば、シンガポールは2050年までのネットゼロ目標を掲げており、企業が低炭素技術への計画や投資を行い、投資と活動がすべて低炭素の未来実現に向けてずれることがないようにするためのロードマップを用意しています。シンガポール金融管理局(MAS)は、投資をより持続可能な結果に導くため、資産運用会社に対し、企業や商品レベルのESG情報開示を求める規制を導入し、コンプライアンスを徹底しています。

 

※ 大気中に排出される温室効果ガスと大気中から除去される温室効果ガスが同量となり、バランスが取れている状況のこと。

 

香港証券取引所(HKEX)はESGガイドを更新し、上場企業に対して年度報告書と併せてESG報告書の発行を義務付けました。また、香港では、香港金融管理局による「グリーン&サステナブル金融クロスエージェンシー運営グループ」も設立され、ESGの情報開示が進んでいます。

 

また、中国国内の金融機関向けに、顧客のESGリスクを管理するための新たな手続きを盛り込んだガイドラインを発表し、リスクとパフォーマンス指標の評価の枠組みを確立するため、政府が国内市場の投資家向けに、ESGの取り組みに関する企業の開示基準に関するガイダンスを公開しています。

 

オーストラリアでは、気候関連の開示を行うためのロードマップを発行しています。また、今後数年のうちに、オーストラリア政府は国内の大企業に対しサステナビリティとESG報告の義務付けを計画中で、企業や金融機関向けに気候リスク開示フレームワーク開発に関するコンサルテーションペーパーを発表しました。

 

最近では、日本の金融商品取引法(FIEA)は、日本の上場企業に対してESGに特化した開示を導入するために、年次公開文書に企業の持続可能な開発計画と経営方針・戦略との整合性を図ることを目的とした新しい項目を設けることを提案しています。

デューデリジェンスとESGコンプライアンス

当然のことながら、ESGが発端となる商業的・法的なデューデリジェンスも増加しています。ESGはビジネスの長期的な価値創造のための標準的なツールとなっており、ESGリスクの軽減、既存の問題の解決だけでなく、株主の価値を高めるためにESG領域をどう使うかという企業戦略も加味されるようになっています。

 

ESGの動きは、規制当局や証券取引所によって標準化された指標に裏付けられた開示、全体としてより高度な定量化された指標が求められるようになっています。このため、ESGコンプライアンスは以前よりはるかに厳格になり、それに伴いデューデリジェンスプロセスも洗練され、複雑になっています。

ESGデューデリジェンス強化のためのITツール

ESGへの対応は、工数やアドバイザリー費用の面でコストを増加させる可能性があります。Datasiteにおけるデリジェンス時間(案件の立ち上げから完了までの日数の中央値)は、2021年と比較して2022年に9%増加し、ESG情報や文書の追加により、これらの案件をサポートするコンテンツも増加しました。 さらに、Datasite内で取引時に含まれるESG用語のキーワード検索は、2021年と比較して2022年に24%増加しました。   

 

多くの情報がやり取りされるようになると、それを管理し、さまざまな関係者と連携する難しさが増します。テクノロジーは、このような課題を克服し、ワークフローを合理化するために重要な役割を果たすことができます。

 

例えば、人工知能(AI)や機械学習(ML)によるスマートツールは、M&A案件においてバイサイドとセルサイドの両当事者に利益をもたらします。セルサイドにとっては、AIが数百、数千のファイルを整理・分類してインデックスを作成し、適切なフォルダに保存するのに役立ちます。

 

AIを活用した高度な調査結果や注釈ツールは、デリジェンスプロセスにおける懸念事項を追跡するのに役立ち、チームメイトや関係者にタグ付けし、注意が必要な問題を通知することが可能です。最終的に、デューデリジェンスは常に手間のかかるプロセスですが、ディールメーカーはAIを活用したM&Aテクノロジーを活用し、合理化することができます。

 

 

清水 洋一郎
Datasite 日本責任者

 

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