「有意な軟骨保護効果」が見られた研究結果
ランズメーア、ランハー先生らは肥満がある変形性膝関節症予備軍の女性407人を、ダイエットと運動のプログラム、グルコサミン治療群に分け、2.5年後にMRI評価(MRI Osteoarthritis Knee Score:MOAKS)を行いました。
MOAKSもWORMS同様にMRIにより軟骨欠損、軟骨下骨異常陰影、半月板変性、骨棘形成等を総合的に評価するものです。結果はダイエットも運動もグルコサミンも2.5年後の総合MRI評価では有意な効果は見られませんでした。この研究の観察期間は2.5年と、先述した研究と比べて長期間です。
しかし半月板、軟骨、軟骨下骨、骨棘などの総合評価では最も効果が期待されるダイエット&運動でも効果が出ませんでした。MOAKSやWORMSのような関節の形態を評価する方法では、もう少し長期間の観察が必要なのかもしれません。
そして2016年、これまでの研究の問題点を解決する非常に重要な論文がカナダのペルティエ先生のグループから発表されました。1593人の変形性膝関節症患者の中から関節症の悪化因子である内側半月板逸脱群429人を、グルコサミン&コンドロイチン無治療、1年治療、2〜3年治療、4〜6年治療の群に分け、6年後の関節軟骨の体積をMRIで計測したのです。
その結果、2年以上グルコサミン&コンドロイチンで治療した群で有意な軟骨保護効果が見られました。この研究の優れている点は、関節症悪化因子である内側半月板逸脱の症例を被験者としたこと、観察期間を6年と十分に長期にしたこと、軟骨体積をMRIで計測したことです。
ペルティエ研究室は変形性膝関節症研究において世界でもトップクラスであり、この研究を否定する要素が見当たりません。ランハー先生らは前述した研究の最新報告を発表しました。
なぜ厳しい「D判定」が下されたのか?
The Prevention of Knee Osteoarthritis in Overweight Females(PROOF)studyと名付けられたこの研究は、407人の変形性膝関節症予備軍である肥満女性に対してダイエット&運動、グルコサミンなどの治療介入が関節症への進行を予防できるかを検証しました。
被験者をグルコサミン+ダイエット&運動群、グルコサミン単独群、プラセボ+ダイエット&運動群、プラセボのみ(コントロール)の4群に分けて2.5年の観察期間終了後、ひざ内側の関節裂隙が1㎜以上狭くなった者を変形性膝関節症としています。
結果は、プラセボのみのコントロール群で約12%が変形性膝関節症に進行したのに対し、グルコサミン服用群ではダイエット、運動の有無にかかわらず4〜6%しか進行していませんでした。この結果はグルコサミンが変形性関節症のリスクを軽減させたことになります。
ダイエット&運動群はリスク減少効果はありませんでしたが、その理由はダイエット失敗例が多く含まれていたためで、5㎏以上あるいは体重5%以上の減量に成功した群では変形性関節症リスクを減少させていました。この研究は、グルコサミン、ダイエット&運動が変形性膝関節症の予防に効果的であることを示した重要な報告です。
ここで日本整形外科学会の変形性膝関節症診療ガイドラインを再び見てみましょう。ガイドラインではグルコサミン、コンドロイチンの疼痛緩和効果についてI判定、軟骨変性抑制効果についてはD判定としています。I判定とは策定委員会の基準を満たすエビデンスがない、あるいは複数のエビデンスがあるが結論が一様でないもの、D判定は推奨しないとなっています。
グルコサミン、コンドロイチンの疼痛緩和効果は確かに肯定派、否定派の意見があり結論は一様でありません。しかしそれなら関節鏡による関節洗浄、デブリドマン治療の効果も意見が分かれており、最近では数年経つとプラセボと差がないとの意見が主流です。にもかかわらず、このガイドラインでは推奨度C(行うことを考慮してよい)になっています。
軟骨変性抑制効果は紹介したような多くの効果を認める論文が出されているにもかかわらず、推奨度Dです。ちなみに、ほかに推奨度Dの治療法はありません。あまりエビデンスのない温熱療法や電気治療でさえ推奨度Cです。海外の膨大なエビデンスを考えるとグルコサミン・コンドロイチンの推奨度が不当に低いと感じるのは私だけでしょうか。
おそらく、「軟骨成分のグルコサミンを摂れば新しい軟骨がどんどんできる」といった栄養食品会社の過剰広告に対する牽制があるのかもしれません。