公的年金は「保険」であり「土台」である
繰下げ受給にもメリット・デメリットそれぞれあります。しかし、「人生100年時代」と呼ばれる長寿社会が到来しつつある局面では、繰下げ受給は実に有効な選択肢です。
WPPモデルでは、公的年金は人生の「抑えの切り札」と位置づけており、リリーフエースの登板はなるべく終盤まで温存することを基本戦略にしています。
一方で、繰下げ受給には「受け取る前に死んでしまったら『払い損』だ」との批判が常につきまといます。この批判に対する回答としては、年金相談の現場から生まれた「繰下げて後悔するのはあの世、繰上げて後悔するのはこの世」という格言を紹介しておきます。
どちらも後悔することに変わりはありませんが、経済的な深刻さを伴うのは、繰上げ受給で年金額が少なくなったのに意図せず長生きしてしまった場合です。
老後生活設計で終身給付(終身年金)の役割が重要なのは、人間はいつまで生きるか(あるいはいつ死ぬか)誰にもわからないからです。
その意味では、全国民(オールジャパン)で保険者集団を構成して長生きリスクに備える公的年金保険の役割は重要ですし、老後の支出のすべてを賄うのは難しいにしても、基礎的な生計費を賄う「土台」としての役割は健在です。
そして、公的年金という土台があるからこそ、老後生活費のすべてを独力で準備する必要はなく、足りない部分のみを自助努力で補えば済むのです。公的年金という土台だけに老後生活のすべてを依存するのも、公的年金という土台を無視してすべてを自助努力で賄おうとするのも、どちらもどだい無理な話です。
いずれにせよ、繰下げするか否かの判断に迷ったら、公的年金は長生きリスクに備える保険であるという基本原則に立ち返りましょう。
谷内 陽一
第一生命保険株式会社・第一生命経済研究所
主席研究員