老後資金2000万円貯めなくても大丈夫
本書で、高齢になったら医療に対する考え方を変えようと提言していますが、お金についてもマインドリセットする必要があります。
日本人は昔から、稼いだ金を好きなことに使うより貯金に回すことが正しいと思っているところがあります。
そこへ2019年に金融庁が「老後2000万円問題」を公表し、老後資金に2000万円貯めていないと晩年にお金が足りなくなるといわれて、いよいよ貯金に走っているわけですが、ケチケチして貯める必要はないと思います。
まず、この2000万円問題は、2017年の高齢夫婦無職世帯の平均収入から平均支出を差し引くと毎月5.5万円赤字になるというケースを取り上げて、30年間で総額2000万円が不足するとされました。
しかし、これはあくまで17年の平均値から算出した額であって、すべての人に当てはまるとは言えません。30年という年数についても、かなり寿命を長く設定しているため、多くの人に当てはまらないと思います。
実は、老年医学を長い間やっていて気がついたことなのですが、ヨボヨボになるか、寝たきりになる、あるいは認知症がひどくなると、人間は意外とお金を使わないのです。
家のローンも払い終わって、子どもの教育費もかからなくなると、経済的に余裕ができます。ところが、認知症が進んだり寝たきりになったりしたら、旅行に行ったり高級レストランで食事をしたりする機会は、まずないと言っていい。
そうしたときに介護保険を使えば、特別養護老人ホームに入ったところで、費用はだいたい厚生年金の範囲で収まります。そうなると老後の蓄えなど必要ありません。
高齢になってもなお、「将来が不安だから」とお金をできるだけ使わないで済ませようとする人が実に多いのですが、年金をもらえる年齢であれば、病気になって入院することになっても国の保険制度を使えば支出はさほどかかりません。
そのとき初めて、一生懸命に節約して頑張って貯金なんかしなくてよかったな、損したなという気分になるはずです。