「サザエさん」の磯野波平さんは54歳
日本人の「平均寿命」は、2021年時点で、男性が81.47年、女性は87.57年になりました。世界トップレベルの長寿国です。しかし、平均寿命が50年を超えたのは戦後、団塊の世代が生まれた1947年のことです。
その前年に新聞で連載が始まったのが人気漫画「サザエさん」でした。アニメではかなり老けていますが、サザエさんの父親の磯野波平さんは54歳、母親のフネさんは50歳(諸説あります)という設定です。いまの同世代からは考えられないでしょう。それくらい日本人は若々しく長寿になったということです。
これは医学の進歩のおかげというより、栄養状態の改善が老化を遅らせ、寿命を延ばしてきたと言えます。
たとえば、大正時代から昭和初期にかけて死因のトップを占めていた結核が、1950年代に患者数が激減して、日本人が一気に長生きできるようになりました。
これには戦後、米軍が脱脂粉乳を配ったり、日本人がそれまでほとんど食べていなかった肉を食べる機会が増えたりして、タンパク質をとるようになった影響が大きい。つまり、タンパク質をとることによって、免疫力が飛躍的に上がったわけです。
1950年代から60年代にかけて、死因のトップだった脳卒中も、その後どんどん減っていったのですが、これも日本人がタンパク質をとるようになったことで血管が強くなったからです。
2020年、死産の数は1万7,278人。妊産婦の死は──
いずれにしても、日本人の寿命は延び続け、戦争で亡くなる人はいなくなり、戦後の経済成長とともに核家族化が進んで、おじいちゃんやおばあちゃんの死に目にすら会わない人も増えた。たいていの人が病院で亡くなるのが当たり前になって、大半の日本人の死を看取るのは医者になりました。
こうして自分のまわりで人が死ななくなると、死というものがどんどん遠のいていく。人の死を目の当たりにすることがないと、とどのつまり、まるで人間は死なないかのような幻想を抱いてしまうのかもしれません。
言うまでもありませんが、どんなに栄養状態が良くなろうとも、医学が進歩しようとも、人間は死を避けることなどできません。たとえば、死産にしてもゼロにすることはできない。
2020年には84万835人の子どもが生まれ、1万7,278人が死産、23人の妊産婦が亡くなっています(厚生労働省「人口動態統計」令和2年(2020)確定数より)。無事に生まれるか、死産になるか、あるいは母親が亡くなってしまうか。これはもう運としか言いようがない。
でも現実には、運というものがあるという発想が欠落しているから、お産で死んだら絶対に医者のせいだと考えられて、下手をすると訴えられる。だから医者も、できるだけ訴訟を起こされないように万全を期す。患者がとにかく死ななければいい、という医療を行うようになるわけです。