植田新日銀体制で日本はどう変わる?
櫻井よしこ氏が語る岸田氏の「不思議な強さ」は黒田氏後継の日銀総裁に植田氏を指名したことにも端的に表れている。
植田氏は柔軟な現実主義者で、異次元の金融緩和を墨守するリフレ派でも反リフレ派でもなく中庸を行く人物で、黒田氏とは異なり広範な支持を得ている。
黒田氏の異次元の金融緩和政策は、日銀OB、学者、エコノミストとメディアから総批判を浴びた。彼らは①日本のデフレは甘受できるもの、②伝統的金融政策は堅持するべきもの、との凝り固まった信念を持っていた。
これに日銀にデフレ脱却の圧力をかけた安倍政権の強圧的手法に対する反発が加わり、異次元緩和派と反異次元緩和派とのあいだに修復不能の溝ができてしまった。
この強烈な政策批判が「異次元金融緩和は失敗する、デフレ脱却は無理で安易なリスクテイクをするべきではない」という国民世論を作り出し、自己実現的に政策目的の実現を困難にしてきたのである。
しかし植田氏にはそうした困難はなく、政策運営はスムーズに進むだろう。
そもそも政労使一体となった賃上げ機運が高まり、1%程度のインフレ定着が見え、いまは持続的な2%インフレという目標に向かう途上にある。これこそ黒田氏による異次元金融緩和の成果なのであるが、いまでは2%の持続的インフレの実現という大方針に異を唱える人はいない。
現在、求められるものは技術論、戦術論であり、もはやデフレが敵か否かの戦略論は必要ない。黒田総裁を支持してきたリフレ派はインフレ2%の定着が確認できるまで現在の金融緩和政策に手をつけるべきでないと考え、反リフレ派はYCCなどの異例な政策はできるだけ早くやめるべきだと考えるが、どちらも最終ゴールが「2%のインフレの定着」であることに変わりはない。
違いはどちらが適切なのかの技術論にすぎず、当面の緩和環境維持の考えに相違はない。その際に決定的なのは、国民的支持を集める力であり、植田氏と補佐する副総裁候補の氷見野氏、内田氏は国民と市場の支持を得られる理想的布陣といえる。
「株高基調」と「円安維持」に期待
その国民的支持のメルクマールはといえば、株価にほかならない。株式市場が懸念する金融政策を岸田氏は望まず、植田氏も採る余地はないのである。また持続的賃上げを定着させるとの観点から、1ドル120円台の円高を容認することもありえないはずである。植田日銀体制は最初から、株高基調の促進と円安維持に向けて政策手段を動員すべく運命づけられている、といえる。
それにしても安倍・菅政権の下で日本企業の稼ぐ力が倍増した。法人企業の経常利益は2000~2012年度まで40兆円台で推移していたが、2021年度は86.7兆円へと上昇した。この稼ぐ力の大幅な向上が、岸田政権の「不思議な強さ」の背景にあることは、特筆されるべきだろう。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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