「特別受益を考慮しないで」と遺言書に書ける
(1)「持戻し免除」という方法がある
たとえば、亡くなる9年前に次男が家を建てた折、500万円資金援助をしました。親としては、長男は最初の子で嬉しい、末娘は初の姫で甘くなる。こうして3人の子どものなかの次男には、少し愛情が薄くなるというところがあったので、少しは平等になるようにと支援してやったのです。
親は遺言書を書くにあたって、兄弟3人で分けるだろうが、万が一他の子どもから「お前は親父から生前500万円の住宅資金の特別受益を得ているだろう」ともめてしまう可能性があるのが心配でした。そんなときには上の図の3のような遺言を加えます。さらに「付言事項」でその理由を書いて争いが起きないように手当するのです。
これによって、特別受益500万円については、相続の基礎財産に含まれなくなるため、次男にとっては渡し切りになります。だから、図表6の2-2の遺言では、長女と均分に相続されることになります。
(2)結婚20年以上の配偶者は自動的に「持戻し免除」
結婚20年以上の夫婦の互いへ居住用の不動産を遺贈または贈与したときは、上の図の遺言書のように書かなくても、書いてあるものと推定してくれます。
逆に結婚20年未満の夫婦のケースでは、上図のように明記しなければなりません。
(3)「持戻し免除」があっても「遺留分」には関係しない
「持戻しの免除」は亡くなった方の意思を尊重するものです。一方で、相続人の相続に対する期待から、遺留分という最低限の権利が認められています。「持戻しの免除」で遺留分まで制限できるとしたら、遺留分制度の意味がなくなってしまうからです。
したがって、「持戻しの免除」があっても、遺留分を計算するときは、「持戻し免除」がなかったとして、つまり、特別受益額を持ち戻しして、それを遺産として、通常、法定相続分の半分となる最低保証額である「遺留分」を計算するのです。
(4)「おしどり贈与」に注意
俗に「おしどり贈与」という相続税の制度があります。上記と同様に結婚20年以上の夫婦間で、居住用不動産を贈与したときに2,000万円までは贈与税が非課税になる制度です。
しかし、「おしどり贈与」には、思わぬ負担として不動産取引税や登録免許税が課税されて「やらなければよかった。贈与せずに相続で渡せばかからなかったのに…」と悔やむ人が多いのです。
それを防ぐためには、贈与ではなく遺贈、すなわち遺言書で「妻に別紙**の居住用不動産を相続させる」とし、結婚20年未満の夫婦のときは、「特別受益の持戻しをしないものとする」と書くことです。
心を込めた遺言書を書くには
遺言書の「付言事項」を書く
これまで、「もめないために」様々な工夫をしてきました。遺言書は法的に正式で厳格なものです。どうしても形式にとらわれてしまいやすいものです。
そこで、遺言書の後に「付言」を書くことをお勧めします。
この付言は正式な遺言書ではありません。つまり法的効果はありませんが遺された人の感情を大きく作用して、遺言書に書いたことを納得してくれやすくなります。
たとえば…上の図のように書きます。しかし注意してほしいのは、どんなに平等にしたつもりでも平等にはならないことです。皆、条件が異なります。
相続人それぞれの、親からの愛情の受け取り方もすべて異なります。
「仲良し家族」はこれらを互いに我慢し合えるものです。
そして、よくある紋切り型の台詞である「兄弟仲良く」などとは書かないことです。具体的でユニークな言葉を紡ぎ出してください。
上の図の例の側線の部分では、大きな差が出ないようには努力をするため、足らないと思う部分については生前贈与をします。
ただし相続税の心配がなければ、不足する額は、生前ではなく、余分に遺言書に記して相続させてもよいでしょう。
牧口 晴一
税理士
行政書士
法務大臣認証事業承継ADR調停補佐人